研究実績の概要 |
本研究では、大規模な人間集団の同期現象によって魅力的な芸術表現を実現している典型例として、インドネシア・バリ島の祭祀祝祭芸能「ケチャ」をとりあげ、指揮者やメトロノームのような基準なしに高速同期演奏を可能にする脳機能の同期性を明らかにすることにより、「阿吽の呼吸」のコミュニケーションを支える神経基盤に迫る。ケチャを演奏中の被験者4名(合唱各パート1名ずつ)の後頭部4電極(T5, O1, O2, T6)から脳波を同時記録し、ケチャ演奏時と非演奏時(開眼安静)の自発脳波α帯域成分のパワーおよび同帯域の個体間コヒーレンスの変化を検討した。その結果、標準化した自発脳波α帯域成分のパワーは、ケチャの演奏時には非演奏時に比較して増大することが示された。またこの増大傾向はケチャの演奏速度にかかわらず観察された。一方、ケチャ演奏中に後頭部O1電極から記録した自発脳波の被験者間α帯域コヒーレンスの変化を調べたところ、全体的に被験者間のコヒーレンスの上昇が観察されたが、その動向は被験者によっても異なっていた。さらに、Total Interdependence (TI)を評価指標として用いて、アンサンブル全体の脳波の同期性が、演奏によってどのように変化するかを検討した。その結果、ケチャ演奏中は演奏していない安静時と比較して、Group synchronyとSubject-to-Group synchronyの両者とも増大していることが示された。また、ケチャ演奏後の安静時は、ケチャ演奏前の安静時と比較して、 Group synchronyとSubject-to-Group synchronyの両者とも増大していた。これらの結果は、高度な同期性が必須のケチャの演奏は、脳活動の個体間同期性に遷延する影響を及ぼす可能性があることを示唆している。
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