本研究課題では、非常に高い乾燥耐性と極限環境耐性を持つクマムシを材料として、極限的な環境ストレスから生体を防護する分子実体の特定とその寄与メカニズムの解明を進めている。本年度はまず、前年度までに同定していた脱水ストレスに応答して可逆的に凝集するタンパク質群について、ヒト培養細胞内における高浸透圧曝露時の挙動を解析した。その結果、昨年度見出していた繊維状構造を形成するタンパク質のほか、液滴状構造を形成するものを見出した。これらのタンパク質は脱水ストレスに呼応して相転移もしくは相分離すると考えられる。繊維状構造体については構成分子が流動性を失っていることを示し形成される繊維がソリッドな構造体であることを明らかにした。さらに各タンパク質について領域欠失変異体を作成し、繊維・液滴形成に必須な領域を特定するとともに繊維・液滴形成可能な最小領域を決定した。当該領域について高次構造を解析し、アミノ酸変異の導入によってこうした高次構造を破壊すると繊維形成能が失われることを示した。液滴形成タンパク質は繊維形成タンパク質と共存下では協働して同じ繊維構造に取り込まれることも見出し、こうした協働に必要な領域は液滴形成に必要な領域と合致することも判明した。これらのクマムシタンパク質は脱水ストレス条件下でソリッドな繊維を形成し耐性に寄与することが考えられる。また、上記の解析と並行して別の耐性タンパク質について結合するリガンド因子を特定し、酸化ストレスの発生を抑制することで乾燥耐性に寄与することを示唆し、クマムシの耐性が複数の異なるメカニズムによって支持されていることを示唆した。
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