公募研究
骨組織にとって力学的荷重は恒常性維持に最も重要な要素である。骨組織では常に古い骨は破骨細胞によって壊され、新しい骨が骨芽細胞によって形成される。この破壊と形成のバランスが保たれることにより正常な骨組織が維持されるが、寝たきりや運動不足といった骨組織に力学的負荷がかからない環境ではバランスが破壊に傾き、骨量が低下して不動性骨粗鬆症を発症する。この病態理解を理解し、根本的に治療するためには、これまでほとんど明らかにされていない間質液による骨細胞に対するシアストレスが骨代謝関連遺伝子の発現制御メカニズムを明らかにする必要があることから、本研究では骨細胞による力学的負荷受容とそれによる骨代謝制御メカニズムの解明を図った。骨組織において力学的荷重を感知して骨代謝を制御する骨細胞においてシグナル伝達因子PI3Kを欠損させたマウスは宇宙マウスと同様に重度の骨粗鬆症を発症し、破骨細胞数増加による骨破壊の亢進および骨芽細胞による骨形成の低下が見られるなど、完全な宇宙マウスのphenocopyであることを明らかにした。さらにPI3Kが制御するシグナル伝達経路を詳細に解析したところ、力学的負荷によってインスリン/IGF経路が重要であることも判明した。さらに不動性骨粗鬆症における生体内骨細胞PI3Kの重要性を明らかにする目的で、マウス後肢のワイヤー固定による不動性骨粗鬆症モデルの確立を行った。経時的な解析を行ったところ、このモデルでは固定後3日では骨量に影響がないが、1週間後には有意に骨量が低下し、固定後2週間の時点で著しい骨量低下が起こることが判明した。この不動性骨粗鬆症モデルを骨細胞においてシグナル伝達因子PI3Kを欠損させたマウスに適用させたところ、骨量の低下は抑制されたことから、骨細胞のPI3Kはメカニカルストレスによる骨組織恒常性維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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Sci Adv
巻: 5 ページ: eaau7802
10.1126/sciadv.aau7802