公募研究
生体間葉系幹細胞は、骨組織において骨芽細胞や軟骨細胞の供給源であり、さらに、ニッチ細胞として血液細胞の機能調節にも関与することが報告されている。宇宙飛行士や長期臥床者には骨量の急激な減少とともに、免疫機能の低下も観察される。近年、生体間葉系幹細胞の幹細胞特性と重力環境変動の関連性が報告されているが、微小重力環境下で発症する機能異常における生体間葉系幹細胞の役割は未解明である。私たちはこれまでに、MAPKの一つであるExtracellular signal-regulated kinase 5(Erk5)が、間葉系幹細胞の幹細胞性維持機構に必須であることを見出した。したがって本研究では、間葉系幹細胞のErk5は、骨組織のメカノトランスデューサーとして、重力変動環境下における生体恒常性維持に重要な役割を果たしているのかを明らかにすることを目的とした。まず最初に、微小重力環境下での骨組織における機能変動と生体間葉系幹細胞におけるErk5活性との関連性を明らかにすることを目的に、模擬微小重力モデルである尾部懸垂を負荷したマウスの後肢を用いて実験を行った。尾部懸垂負荷マウスの骨組織において、骨芽細胞数低下および骨形成能低下と、B細胞の減少が観察された。さらに同マウスの骨組織において、生体間葉系幹細胞のErk5のリン酸化低下が認められた。また、生体間葉系幹細胞におけるErk5の機能的役割を明らかにする目的で、生体間葉系幹細胞特異的遺伝子改変マウスを作製し、表現型解析を行った。その結果、生体間葉系幹細胞のErk5が不活性化したマウスの骨組織において、野生型マウスと比較して、著明な骨量の低下とB細胞の減少が観察された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、微小重力環境下におけるErk5の活性化の解析を実施し、さらに細胞特異的遺伝子改変マウスを用いた解析により、間葉系幹細胞のErk5が骨恒常性維持に重要な役割を果たしている可能性を見出した。さらにあらたな遺伝子改変マウスの作製と解析も進んでいることから進展と考えられる。
今後は骨髄由来間葉系幹細胞の細胞培養系を用いたin vitro解析により、詳細なメカニズム解析が必要である。また、生体間葉系幹細胞を誘導的欠失させたマウスを作製し、間葉系幹細胞欠失マウスの微小重力環境下での血液細胞の機能解析および骨表現解析を行うことによって、「微小重力環境下における間葉系幹細胞の重要性」を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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