研究実績の概要 |
分子と細胞のスケールをつなぐ細胞内の特徴的な構造として、近年液液相分離(LLPS)が注目されている。私たちはこの簡単なモデル系としてPEG (ポリエチレングリコール) /DEX(デキストラン)からなる水性二相分離系(ATPS)に着目し、細胞に基本的なin vitroの生化学プロセス(DNA複製、無細胞転写・翻訳、アクチン重合)などをこのミクロコンパートメントに封じ特に1Gでの細胞質の安定性議論のための1モデルとすることを目指している。 安定なATPS液滴の相図を検討しながら、いくつかのデモンストレーションを行ってきた。瀧口金吾講師(名古屋大)、吉川研一教授(同志社大)との共同研究実績の一部として、本課題開始後に採択されたものには(この成果は私たちが本研究課題に関する重要な研究として従前取り組んできたものであり現在さらに進展中である)「DNAおよび細胞骨格(アクチン)封入細胞サイズ水/水微小液滴」に関する研究がある(N. Nakatani et al. ChemBioChem 2018, 19(13), 1370)。細胞サイズの水/水微小液滴を生成し、DNAとアクチンを取込ませることに成功した。構造や重合状態がことなると、局在挙動に特徴的な違いが現れることを見出している。 さらに、同様の研究体制で、「水/水微小液滴への細胞封入」(H. Sakuta et al. Frontiers Chem 2019, 7, 44)に関する成果も発表した。PEG/DEX二相系で生成される水/水微小液滴に、細胞などの生物由来の構造体を封入、DEXを主成分とする微小液滴内に局在させた。さらに細胞は、液滴の表面、すなわちPEG/DEX界面、または界面から離れた液滴内部のいずれか(あるいは両方)に局在し、その局在性は、細胞の種類とPEG/DEX含有費によりスイッチされることが分かった。
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