本年度の研究では、昨年度に引き続き、分子と細胞のスケールをつなぐ細胞内の特徴的な構造として、近年液液相分離(LLPS)が注目している。私たちは、このモデル系としてPEG (ポリエチレングリコール) /DEX(デキストラン)からなる水性二相分離系(ATPS)を用いて、これが示す特徴的な水性ミクロ相分離構造、すなわち、水性のミクロ液滴構造が、細胞に基本的なin vitroの生化学プロセス(DNA複製、無細胞転写・翻訳、アクチン重合)などを取り込ませることが可能なミクロコンパートメントであり、オルガネラモデルとも捉えられるのではないか、と考えている。ミクロ分離からマクロ分離へ徐々に移行するため、ミクロ液滴の持続の議論は、1Gでの細胞質の安定性議論のための1モデルのそれにつながると考えている。 今年度は、昨年度までに行い報告した、DNAおよび細胞骨格(アクチン)封入細胞サイズ水/水微小液滴、水/水微小液滴への細胞封入、とともに、本文冒頭の目的のため、迅速な相図作成と1G分散安定性解析を行い、学会発表、解説(和文)の執筆を行った。 ここではPEG/DEX系の二相分離境界線(binodal)近傍を知る相図を迅速把握するため、複数組成を含むマイクロプレートの高速撹拌・濁度測定法を試験した。常法(滴定法)で作成し、良好な結果を得た。DEX相に蛍光標識DEXをトレーサとし、マイクロプレートの下方蛍光強度を経時測定すれば、1G下、マクロ二相分離までの挙動を追跡できた。以上により、Binodal近傍域で内外とも高い高分子濃度となる条件を取ることで、1G下著しく水/水微小液滴分散安定性が高まった。さらに水/水液滴の高い分散安定性を与える条件の検討を、さらに生化学プロセスと共存させながら進めている。 生体高分子などを用いたモデル実験における相分離の重要性についても改めて考察し国際誌上の総説に纏めた。
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