これまでの放射線影響研究から、ヒト集団には放射線感受性の遺伝的個人差が存在することが示されているが、その遺伝学的分子基盤は不明な点が多い。本研究では、放射線感受性個人差を規定する遺伝素因を探索・同定して、より安全な宇宙放射線被ばく管理に資する研究を展開した。 まず、放射線感受性個人差が高い人が集積する傾向にある卵巣がん患者集団52名の全エクソーム解析から、放射線感受性を規定する候補因子としてNBS1 I171V多型を同定した。本多型は、健常者集団中にも約0.2%存在しており、乳がんリスクを約1.5倍上げることが疫学的に報告されている。 そこで、NBS1 I171V多型が真の放射線感受性を規定する遺伝素因であることを実証する目的で、ゲノム編集技術を用いてヒト培養細胞株HCT116細胞およびマウス初期胚にNBS1 I171Vをノックインした細胞およびマウスを作製した。これらの細胞クローンおよびNBS1 I171V多型ノックインマウス由来胎児線維芽細胞の解析を行い、NBS1 I171V多型は、NBS1タンパク質の安定性、放射線照射後のDNA損傷部位への集積および放射線致死感受性には大きな影響を与えないが、放射線による染色体不安定性を有意に亢進させることを微小核形成法により明らかにした。これらの結果から、NBS1 I171V多型は、放射線感受性個人差を規定する新たな遺伝素因の一つであり、放射線被ばく管理のマーカーとしても有用であることが示唆された。
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