研究領域 | 宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
18H04984
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
北宅 善昭 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (60169886)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 宇宙生命維持システム / サツマイモ / 植物工場 |
研究実績の概要 |
植物栽培装置を試作し、航空機放物線飛行により生じる低重力環境で、以下を検討した。 1.微小重量下での試作装置の動作確認を行った結果、植物育成用チャンバー内の気温制御、葉での光合成、蒸散機能の指標となる気孔開度指数のモニタリング、植物育成チャンバー内外のCO2・H2O濃度差計測による植物ガス交換のモニタリングについて、問題は見られなかった。 2.サツマイモ茎内の水の移動に及ぼす低重力の影響を調べるため、茎表面温度分布画像を用いて、微小ヒータで加熱された部位周辺の水の流れに伴う熱伝達の観察から検討した。仮説では、植物の茎内や培地内の水の流れによって、微小ヒータにより加えられた熱の伝達が促進され、加熱部近傍の温度分布が変形する。系内の水の流れが促進される場合には、水の流れに伴う熱の伝達が促進される。放物線飛行中において茎の表面温度をモニターすることにより、茎の道管を通る水の流れで熱が移動する状況から、水の流れを定性的に解析した。その結果、撹拌ファンによる強制気流(植物近傍の気流速度0.5 m s-1)がある場合、微小重力下(0.01 g)と地上重力(1.0 g)下での茎における温度差の分布は、仮説と同様の変化を示し、微小重力下では茎内蒸散流が促進された。また茎内蒸散流の促進は、重力の低下に伴い顕著になった。これまでの航空機実験で明らかにしてきたように、強制気流がない場合(植物近傍の気流速度0.1 m s-1以下)、低重力は葉での蒸散を抑制し、茎内の蒸散流を抑制する。しかし今回、強制気流がある場合には低重力下での鉛直上向きの茎蒸散流が促進された。 3.塊根・茎葉を食用とするサツマイモの栽培技術の開発を進めた。塊根および茎葉を食用とする場合の収量について、側枝収穫時期がバイオマス分配に及ぼす影響を調べた。その結果、側枝収穫時期を調節することで可食部収量を高められる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
宇宙の閉鎖空間で、食料となる植物を生産し、さらに空気や水の浄化、物質リサイクルを可能とする栽培実験装置を開発することを目的として、地上での研究を行った。この装置は精密な環境制御の下で植物を健全に育成できる。制御環境要素の逐次モニタリング、発芽から栄養・生殖成長を含む植物生育全段階における形態形成、ガス交換、水収支などの情報を個体あるいは組織レベルで自動モニタリングできる装置開発を遂行した。試作機開発にを行い、当初予定した微小重量下での試作植物栽培実験装置における環境制御・植物情報モニタリングの確認、茎内蒸散流に及ぼす低重力の影響評価に加えて、宇宙植物工場で塊根・茎葉を食用とするサツマイモの栽培技術の開発を遂行できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、この実験装置のダウンサイジングを行うとともに、2019-2020年度採用のJAXA「きぼう」利用フィジビリティスタディ「テーマ名:食糧作物成長の重力応答解析と宇宙植物工場への応用」と連携して、今年度、地上実験を推進し、この実験装置のISS「きぼう」実験棟への搭載を目指す。次年度以降、宇宙での食料生産を実証するとともに、宇宙環境の植物影響を細胞から個体、さらには個体群レベルで評価する。これらから得られる知見は、数世代にわたる植物の生活環と遺伝的変異に及ぼす宇宙環境の影響解明の観点から、宇宙生物科学に資する情報であると同時に、装置開発に伴う技術的知見とともに、植物を中心とした生命維持システムや宇宙農場システムの構築に不可欠な生物科学的情報として重要である。
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