将来の宇宙居住に向けた閉鎖生態系生命維持システム構築を目標として、食料となる植物を生産し、さらに空気や水の浄化、物質リサイクルを可能とする装置を開発するため、精密な環境制御の下で植物を健全に育成でき、制御環境要素の逐次モニタリング、発芽から栄養・生殖成長を含む植物生育全段階における形態形成、ガス交換、水収支などの情報を自動モニタリングできる技術を検討した。具体的には、(1)微小重量下での試作植物栽培実験装置における環境制御・植物情報モニタリング技術の開発、(2)茎内蒸散流に及ぼす低重力の影響、(3)塊根・茎葉を食用とするサツマイモの効率的栽培技術の開発、(4)葉の光合成、蒸散、水利用効率に及ぼす気流速度の影響等について検討した。 その結果、植物の蒸散については、強制気流がない場合(植物近傍の気流速度0.1 m s-1以下)、微小重力は葉での蒸散を抑制し、茎内の蒸散流を抑制するが、強制気流がある場合(気流速度0.5 m s-1)では微小重力下での鉛直上向きの茎蒸散流が促進されることを明らかにした。また、気流の蒸散促進効果は、光合成促進効果より顕著であり、その結果、気流速度が高くなると、水利用効率(光合成速度/蒸散速度)は低下することを明らかにした。さらに、塊根・茎葉を食用とするサツマイモの効率的栽培技術として、塊根に加えて茎葉も食料として生産する場合の収量に注目し、節挿し栽培法を用いて、側枝収穫時期がバイオマス分配に及ぼす影響を調べた結果、側枝収穫時期を調節することでバイオマス分配を制御でき、塊根と茎葉の総収量を高められることを実証した。さらに、草丈数10 cm程度の植物体内の水輸送において、一般的に重要視されていない重力影響は無視できないことが再確認でき、強制気流がある場合、宇宙での低重力下における水輸送促進の可能性を明らかにした。
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