公募研究
宇宙に滞在すると、無重力、宇宙放射線など地上にはない環境や、様々な精神的ストレスを経験する。本課題は、宇宙滞在による環境変動やストレスが、免疫機能に重要なリンパ組織に与える影響を分子レベルで明らかにすることを目的としている。国際宇宙ステーションで35日間飼育したマウス(微重力マウス)と、同時に人工的な1G状態で飼育したマウス(人工1Gマウス)、および地上飼育コントロールマウス(地上マウス)からリンパ節、脾臓を採取した。体重に対する脾臓重量比を比較したところ、地上マウスに比べ、微重力マウスでは脾臓重量比が減少していた。脾臓の遺伝子発現における宇宙環境ストレスの影響を調べるためにRNA-seq解析を行った。各サンプルの主成分解析から、微重力マウス脾臓の遺伝子発現は、人工1Gマウスや地上マウス脾臓の遺伝子発現とは、かなり異なることが判明した。すなわち、脾臓の遺伝子発現は、宇宙環境ストレスにより変動し、その変動の一部は微重力に由来すると考えられる。微重力マウスの脾臓で変動する遺伝子についてGene ontology解析を行ったところ、赤血球分化に関わる遺伝子群が有意に減少していることが判明した。またGene set enrichment 解析では、転写因子GATA1標的遺伝子と転写因子Tal1標的遺伝子が減少していた。さらにGATA1やTal1の発現も微重力マウスの脾臓で減少した。標的遺伝子の転写開始点付近に存在する転写因子結合配列をTOMTOM /DREAMアルゴリズムで探索したところ、GATA1結合配列が、有意に多く存在することも判明した。以上の結果から、微重力などの宇宙環境ストレスは、脾臓のGATA1やTal1遺伝子の発現を減少させ、その帰結として、GATA1やTal1の標的遺伝子の発現を減少させると考えている。
2: おおむね順調に進展している
本課題の研究目的の一つである、リンパ組織脾臓への宇宙環境の影響を、宇宙滞在したマウス由来のサンプルを用いて精査した。その結果、GATA-1およびTal-1による遺伝子制御が、宇宙滞在により変動することを世界に先駆けて明らかすることに成功し、本課題の目的の一つを達成できた。
今後は、どのような機構によりGATA1やTal1遺伝子が宇宙環境で減少するのか、調べることが必要である。脾臓の遺伝子発現変動は、宇宙環境での人工的1G負荷により一部回復するが、GATA-1やTal-1の発現低下は回復しないため、他の制御機構が関与する可能性がある。また脾臓内の様々な細胞を分取し、各に宇宙環境が及ぼす影響を調べることで、より詳細な分子機構の解明が期待される。さらに次年度は、他のリンパ組織への影響についても調べることで、宇宙環境が免疫系に与える影響についての知見を蓄積する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 501 ページ: 745-750
10.1016/j.bbrc.2018.05.060.
J. Exp. Med
巻: 215 ページ: 501-519
10.1084/jem.20160659