研究領域 | 宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
18H04990
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
阪上 朝子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (90462689)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 蛍光プローブ / 疑似微小重力 / 宇宙放射線 / direct visualization |
研究実績の概要 |
<地球環境基本データの蓄積>から<宇宙環境実験>へ 細胞周期をリアルタイムに追跡する蛍光プローブ, 酸化ストレスプローブ、エピジェネティクスプローブ、カルシウムプローブ、DNA損傷部位可視化プローブ、Dsup、について地球環境における様々なストレスへの応答様式についてデータを蓄積する為の実験系の整備を進めた。領域会議などにより上記蛍光プローブの実用的利用の提案を行い、宇宙環境実験系の提供および設計を目的とした連携を図った。具体的には、Fucciおよび新規Fucci(CA)を恒常的に発現するヒトがん細胞株と正常細胞株を複数樹立した。まずは地球環境において、各種抗がん剤に対する細胞応答パターンについて時空間情報を基本にデータ化することを目標にタイムラプスイメージングを行った。ハイコンテント解析により例えば細胞周期情報を可視化すると、細胞はその種類によって、もしくはおかれた環境(密集度、足場環境など)によって薬剤応答パターンが大きく異なる事が明らかであった。 領域内連携により導入した3Dクリノスタットを用いて、擬似微小重力環境下における “direct visualization”プロジェクトを実行すべく、3Dクリノスタット設置型―モバイル蛍光顕微鏡システムの開発を加速した。スマホ顕微鏡に加え、落射型蛍光顕微鏡構成を基本に、自作で蛍光顕微鏡の超小型化を目指しており、2019年度内の完成を目指す。 2017年に確立したUV傷害観察の実験系を、本領域内外より提供される宇宙放射線被曝擬似実験に適用し、宇宙放射線が与える影響を“direct visualization”する実験を進めた。群馬大学・重粒子線医学研究センターにおいて、炭素線およびX線照射実験を行った。また京都大学・放射線生物研究センターにおいて、セシウムイオンの低線量率照射実験を行った。いずれも解析を進めている段階である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地球環境における様々なストレス応答様式についてデータを蓄積する為の実験系整備として、Fucciおよび新規Fucci(CA)もしくはストレス応答プローブなどを恒常的に発現するヒトがん細胞株と正常細胞株を複数樹立した。一例として、ハイコンテント解析により細胞周期情報を可視化すると、細胞はその種類によって、もしくはおかれた環境(密集度、足場環境など)によって薬剤応答パターンが大きく異なる事が分かった。今後はこれらを疑似微小重力環境でのタイムラプスイメージングへと適用していく。複数の由来の異なる細胞株を比較することで、得られる現象の普遍性もしくは異質性を抽出、議論できる基盤となると考えている。
3Dクリノスタット設置型―モバイル蛍光顕微鏡システムの開発においては、1色の蛍光を観察する為のシステムについては開発を完了したが、2色の蛍光を観察するシステムについては、想像以上に光軸調整が難航した。2019年度には、光軸調整および、クリノスタットへの安定した固定手法について、加速して開発を進める予定である。
いわゆる「モバイル顕微鏡」は、研究現場のみならず、一般社会においても様々な場面において応用可能な技術である。本研究から得られるデータや蛍光画像を用いて、社会全般に分かりやすく発信していくことも命題である。実際に宇宙実験を行っている研究者からの要望を受け、モバイル顕微鏡導入検討へと橋渡しが始まっている。
|
今後の研究の推進方策 |
・クリノスタット設置型-「モバイル蛍光顕微鏡」システム(2色の蛍光を観察するシステム)を完成させ、領域内へ提案する。・前年度までに行った各種、“direct visualization”プロジェクトの結果の解釈を進める。領域内および宮脇チームリーダーとのディスカッションを経て、軌道修正を繰り返しながら、宇宙規模での基本的生命現象の理解の収束を目指す。 ・平成30年に樹立したエピジェネティクスプローブ発現マウスを用いて、心的ストレス、物理的ストレスとエピジェネティクス(DNAメチル化)の関係について、プローブ発現マウスの脳を対象に「重力」「宇宙放射線」軸との関連を検討する。 ・地球環境、宇宙環境、放射線被曝などの環境について、これらストレスプローブを発現する細胞や動物の反応を可視化していく。この過程において、時間情報、空間情報、重力情報の観点から、ストレス感知機構の理解へとつなげていく。 ・JAXA「2018年度「きぼう」利用フィジビリティスタディ(FS)テーマ」に、代表;群馬大学・高橋昭久先生、研究テーマ;「宇宙での微小重力環境におけるガンの進行」の研究分担者として参画する機会に恵まれた。ここでは、本研究でFucciを用いて得られた知見を元に、基本的生命現象に関して仮説を立て、それを検証する実験系を組んでいく。すでにISSで行われている蛍光イメージングにおいては、サンプルによってその操作性を飛躍的に向上させることを狙い、「モバイル蛍光顕微鏡」システムの運用を提案する。
|