研究領域 | 宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
18H04993
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
冨田 拓郎 (沼賀拓郎) 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 助教 (60705060)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 筋萎縮 / 運動模倣薬 |
研究実績の概要 |
筋萎縮はサルコペニアやフレイルに見られる主症状であり、その予防・治療戦略の構築が求められている。ラット新生児心筋細胞に高濃度のATP刺激を行うと心筋は萎縮する。その機構にTRPC3-Nox2複合体の活性化が関与することを見出した。高濃度ATP曝露によりP2Y2受容体を介してTRPC3-Nox2複合体が活性化され、活性酸素生成に依存して筋萎縮マーカータンパク質MAFbxの発現が増加することを見出した。グルコース除去や栄養飢餓を施した際に起こるATP放出によっても、P2Y2受容体-TRPC3-Nox2複合体が活性化され、心筋萎縮が起こることも明らかとなった。これまでに、ドキソルビシン誘発性の心萎縮もTRPC3-Nox2機能連関が仲介することを報告した(JCI insiht, 2017)。TRPC3とNox2はマクロファージに多く発現していることから、Raw264.7細胞株のドキソルビシン誘発性細胞死を指標に、1270種類の既承認薬の中からTRPC3-Nox2機能共役を抑制する化合物の探索を行ったところ、イブジラスト(商品名ケタス、適応疾患:気管支喘息)を新たに同定した。イブジラストはドキソルビシン投与によるマウスの体重量および組織重量の低下や酸化ストレス障害を有意に抑制した。以上の結果は、TRPC3-Nox2複合体が抗がん剤投与による筋組織萎縮の原因となり、薬理学的にこれを抑制することが全身毒性を軽減する新たな治療戦略となる可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
力学的負荷の低下が、筋組織の萎縮を引き起こすことはよく知られ、宇宙での長期滞在における最も大きな問題の一つであることが知られる。本研究は、重力運動喪失により引き起こされる筋組織の萎縮機構の解明を通して、筋萎縮を予防する新規医療技術の開発基盤を開発することを目的とする。今年度までに、我々は心筋の萎縮機構のメカニズムとしてTRPC3-Nox2の機能連簡による過剰な活性酸素種の生成メカニズムに注目してきた。しかしながらTRPC3-Nox2複合体の上流に何がシグナルとして存在するのかが不明であった。今回我々は、高濃度の細胞外ATPが心筋細胞の萎縮を引き起こすことを明らかにした。そこで様々な萎縮ストレス(低酸素・低栄養・抗がん剤投与)において細胞外ATPが確かにその萎縮シグナルを仲介することを明らかにした。心筋細胞が萎縮ストレスに曝されると細胞からATPが放出され、それが細胞膜上のP2Y2受容体を活性化し、その下流でTRPC3-Nox2が活性化、過剰な活性酸素種が生成されることを突き止めた。また、TRPC3-Nox2の機能連関が筋萎縮における創薬標的であることを明らかにしたことから、TRPC3-Nox2を標的とする化合物スクリーニングを行い、PDE4阻害剤イブジラストが新たな薬効としてTRPC3-Nox2の相互作用を遮断する効果を有することを明らかにした。以上のことから、基礎的な萎縮メカニズムの新たな詳細を明らかに出来、且つ筋委縮を予防するポテンシャルを有する化合物の同定に至った。
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今後の研究の推進方策 |
筋萎縮ストレスに対して、TRPC3/C6の抑制が有意な抵抗性を示すことをこれまでに明らかにしてきた。そこで今後は、その詳細なメカニズムを解析する。抵抗性獲得機構として、既にTRPC3/C6筋細胞がストレス抵抗性を有している可能性と、ストレスに暴露された筋細胞においてTRPC3/C6の機能が上昇し、筋萎縮が亢進する二つの可能性が考えられる。そこで、まずはTRPC3/C6の欠損により、通常条件において筋線維内でのタンパク質分解系因子の発現を確認する。また筋細胞自身の代謝変化やストレス抵抗性因子(転写因子NRFやHO-1)の発現変化が既に認められるかを解析する。そこで、既に変化があった場合、それら因子の発現変化の様式を共通する転写因子の同定や、パスウェイ解析により明らかにする。 またストレス誘導性にTRP3/C6の機能が上昇する可能性を検討するため、筋萎縮ストレスに暴露した筋細胞におけるTRPC3/C6の活性を蛍光イメージング(カルシウムおよび膜電位)やパッチクランプ法により解析する。もしTRPC3/C6の機能が増加していた場合、その増加機構の解明を行う。転写レベルでの調節であればプロモーター解析に基づき転写因子を同定し、その萎縮シグナル依存的活性化メカニズムを明らかにする。また翻訳レベルでの調節機構である可能性を考慮し、miRNAの網羅的解析を行う。上記検討でTRPC3/C6の活性制御因子が同定されれば、それら発現を抑制したトランスジェニックマウスおよび欠損筋細胞株を作成し、微小重力環境および薬剤誘導性の筋萎縮に対する影響を解析する。
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