公募研究
耳鳴は,主観的・意識的な知覚であり,脳で作り出される.さらに耳鳴が不快な情動を生み出すと,症状を重篤化し,QOLの深刻な低下を招く.本研究の目的は,耳鳴の発生・重篤化の脳内メカニズムを解明したうえで,音提示(音響療法),音学習(行動療法),投薬などにより,耳鳴知覚の質感を変え,症状を改善できる手法を見出すことである.最近の報告では,主訴に初診受診した患者に対し,耳鳴実態調査を実施したところ,被験者の21%に聴覚過敏を認めた.これらの聴覚過敏有症者は,非有症者よりも,耳鳴の拍動性,大きさ,苦痛度などに顕著な傾向を認めた.この結果から,聴覚過敏が耳鳴有症者のQOLの低下を招くと考えられる.そこで動物実験でも,聴覚過敏様症状に注意して,行動実験と生理実験の結果を精査した.行動実験では,音響曝露により,プレパルス抑制が増加する個体も認められた.これは,音響曝露により,聴覚過敏が生じたと考えられる.次に,この聴覚過敏様症状と相関する脳活動を探索した.具体的には,聴覚野第4層で計測した神経信号を解析対象とし,視床からの聴覚野への入力情報である局所電場電位の大きさ (LFP) と,聴覚野からの出力情報である発火量 (Spikes; SPK) を定量化し,曝露群と統制群とで比較した.その結果,LFPとSPKの活動強度比(聴覚野ゲイン)は,統制群では刺激音圧の低下に伴い増加する傾向にあった.一方で曝露群では,統制群ほど顕著なゲインの増加傾向はみられなかった.また,SPKの反応強度は,聴覚過敏を示唆する行動指標と相関した.これらの結果は,音響外傷に伴う聴覚野ゲインの変化は,聴覚過敏と密接に関わる可能性を示唆する.また,聴覚野レベルでのゲイン調整が,耳鳴治療の有効なターゲットになり得る.
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