本研究の目的は,食品へのプロジェクションマッピングによって視覚的質感を変化させることで,その食品を摂取したときに生じる多感覚知覚(食感,温度,味質,量,鮮度等)やおいしさ等の認知,食行動を制御することが可能な食品向けの新規質感変調投影技術を確立することである.視覚的質感の変化が多感覚知覚に加えて行動や認知をも変化させるという現象を,最も多感覚を活用する食行動に適用し,広範な知覚に影響を与える影響をモデル化することを狙う.そのために,食品の視覚的質感の変化が食感,温度,味質,量,鮮度等の推定に与える影響と,摂食時に生じる多感覚知覚やおいしさ等の認知,さらには食行動に与える影響を体系的に明らかにする.その上で,食知覚・食行動を制御して提示可能な食品向けの新規質感変調投影技術・質感設計手法を明らかにする. 前年度および研究期間延長となった本年度は,動的質感による食品への知覚や認知の変化が購買行動に影響を与えるかを調査するため,実際のレストランで実験をおこなった.日本科学未来館のレストランで,ショーケース内の食品にぐつぐつとした煮える動きの運動情報(動的質感)を投影する日を2日,色味を揃えるために運動情報のない単色の画像(単色画像)を投影する日を2日設け,期間中のレストラン利用者の購買行動データを取得した.その結果,単色画像を投影した場合には当該食品の注文率が7.5%(998名中75名が注文)であったのに対し,動的質感を投影した場合には注文率が10.4%(1355名中141名が注文)となり,有意に注文率が増加した.この結果から,プロジェクションマッピングによる動的質感の付与によって増進された対象の食品に対する食欲が実際の購買行動にも結びつくことを示した.これらの知見をまとめ,動的質感の変調が食知覚・食行動に与える影響を体系化し,食知覚・食行動に影響を与える手法・方策をとりまとめた.
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