研究領域 | 多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出 |
研究課題/領域番号 |
18H05008
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
天野 敏之 和歌山大学, システム工学部, 教授 (60324472)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 双方向反射率分布関数 / 質感操作 / ライトフィールド / 拡張現実感 / 西陣織引箔 |
研究実績の概要 |
本研究は引箔を施した西陣織の帯地を題材とし,ライトフィールドフィードバックによって見かけの質感を操作する質感編集技術の実現を目的とする. 多元質感知の第1期公募研究では,ライトフィールド投影と圧縮センシングを用いた動的なBRDF解析手法と,ライトフィールドフィードバックによる見た目のBRDF変換手法の2つを明らかにした.しかし,先の研究では操作対象は平面形状物体に限定しており,研究代表者が研究成果のアウトリーチ活動として演出を行った「まごころ天女像」のような複雑な形状の物体へ提案手法を適用することはできない.そこで本研究では,第1期公募研究の成果を発展させ,複雑形状物体に対して視点依存の見かけの操作を実現する.また,操作対象の形状情報を利用した高度な質感操作方法についても研究を行なっている. 本報告書の「現在までの進捗状況」の項で説明しているように,H30年度は研究項目の実施順序や内容に変更があった.しかし,本研究に関連する成果として,拡張現実感に関する国際ワークショップである,The 12th Asia Pacific Workshop on Mixed and Augmented Reality (APMAR2019)での研究成果に関する基調講演,国際会議,IEEE VRおよびACM ISS CARDのチュートリアルでの発表,そのほか,招待講演1件を含む2件の国際会議の口頭発表,2件のデモ発表がある.さらに,国内会議では3件の招待講演をはじめ,多数の発表およびデモ展示を行った.また,学術論文の掲載が2件あり,十分な成果が得られている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度は,A1.オクルージョン状態に応じた適応的な見かけのBRDF操作方法の確立,A2.光学系の解析と同軸光学ユニットの製作,A3.カメラ内臓型プロジェクタカメラ系の検討を行うことを予定していたが,効率的な研究の実施のため,A2とA3の代わりに,R1年度に実施を予定していた,B1.ライトフィールドプロジェクタカメラ系を用いた形状計測と画素対応更新方法の確立と,B2.操作対象の形状を考慮した見かけのBRDF操作方法の検討を先に行った. A1については,複数のプロジェクタとカメラの画像間の光学的な関係を反射率行列として求め,この値から遮蔽物により発生する投影の隠蔽,あるいは撮影の隠蔽を推定する方法を確立した.また,複数のプロジェクタを連携させた投影によって遮蔽物で生じる投影の影を軽減する,視点依存の見かけの操作を実現した. B1については,アクティブなパターン光投影ではなく,プロジェクタカメラフィードバックにおいて,事前に求めたピクセルマップと実際の画素対応との齟齬によって発生するアーチファクトを手がかりに画素対応の更新を行う手法を考案した. B2については,圧延加工で生じたヘアラインがあるアルミ板を操作対象とし,7台のプロジェクタを左右方向に並べたプロジェクタアレイによるライトフィールド投影を用いて手法の構築を試みた.研究の結果,知覚的に法線方向を操作するためには,操作対象には適度な分散を持った鏡面反射であるか,あるいは,高密度なプロジェクタの配置が必要であり,現状では任意の物体に適用することは困難であることが明らかになった. 以上のように,研究計画の変更があること,各項目で課題があることなど,予定どおり進んでいないところはあるものの,本研究に関する研究成果は,研究実績の概要で説明したように多数ある.そのため,概ね順調に推移していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
R1年度は,H30年度に実施できなかった,A2.光学系の解析と同軸光学ユニットの製作,A3.カメラ内臓型プロジェクタカメラ系の検討を実施する.また,B3に示した確立した見かけのBRDF操作を応用した伝統工芸品の演出方法の検討を行う. これらに加えて,H30年度に実施した研究項目についても引き続き取り組み,完成度の向上と手法の拡張を試みる. A1については単に遮蔽物によるキャストシャドウが発生しないように背景部分の見かけの操作を行うだけでなく,遮蔽物を前景にある操作対象として手法を拡張し,背景部分だけでなく,前景部分に対しても同時に視点依存の見かけの操作を行う投影手法を実現する. B1については,GPU実装などによって処理の高速化を試みると同時に,処理の安定性と精度の向上を試みる. B2については,現在までの進捗状況で説明した問題がある.具体的には,高密度なプロジェクタの配置は非現実的で,操作対象の反射特性に制約を設ける必要があり,身の回りの日常品に対して視点依存の見かけの操作を行うというコンセプトは実現が困難である.そこで,操作対象を再帰性反射加工が施された物体として問題を簡単化し,複数視点に対応した知覚的に形状を変化させるプロジェクションディスプレイ技術として実現を試みる.
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