研究領域 | 多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出 |
研究課題/領域番号 |
18H05009
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
楊 家家 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 助教 (30601588)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 触覚認知脳機能 / 脳科学 / 実験心理学 / 脳イメージング / 認知症早期診断 |
研究実績の概要 |
立体覚とは,ものを手にした際に対象の質感・形態,用途や名称などの統覚を意味している広義の触覚である。立体覚失認は,基本的感覚(圧覚,素材感など)に障害がないにも拘わらず手の中に与えられた物体が解らない病態である。当初,立体覚失認は,頭頂葉損傷と結びつけられて研究されたが,頭頂葉に器質的損傷のない認知症患者にも立体覚失認がみられる事,そして認知症患者では記憶と学習が損なわれることから,立体覚では学習と記憶が重要であることが示唆された。しかし,その様態は未解明で,立体覚失認のタイプを識別することや,その予兆が発見できないことが問題となっている。本研究は,触覚による素材と形態認知,及び素材の記憶と立体感記憶が統覚として立体覚を成立させるメカニズムを解明し,その成果を認知症早期発見技術の開発に展開する。 本年度では,本研究の全体目標達成に向けて,以下の2項目を実施した。1. 触覚による質感認知実験刺激として,異なる形状の3次元物体表面に異なる粗さの凹凸ドットパターンを加工し,物体形状と表面テクスチャー同時に感じるものを作成した。2. 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて,健常者に視覚キュー刺激に応じて,触っている刺激の形状或いは表面テクスチャーを選択的評価する時の脳活動を計測し,触覚による対象質感識別の脳内処理メカニズムを検討した。これらの研究実施により,次年度の研究実施に必要な実験刺激および基礎データが揃っている。また,2のfMRI実験を実施すると同時に,安静時fMRIデータとDTIデータも取得したため,今後の全脳処理ネットワーク検討に必要なデータも揃っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度では,独自で触覚による質感認知実験刺激を製作して,触覚による対象形態と表面テクスチャー認知の脳内処理メカニズムを検討することが目標である。ヒトは対象を把持することにより対象全体の三次元形状情報が得られる。また,皮膚表面と対象と接触して撫でることで対象の表面テクスチャー情報が得られる。ヒトは,この二種類の感覚情報を脳内で融合して,対象質感を認識していると考えられる。一方で,対象の三次元形状と表面テクスチャー情報は,それぞれ独立して処理するではなく,両者が相互作用して脳内で対象の全体像を形成している。本研究では,この点に着目して,異なる形状の3次元物体表面に異なる粗さの凹凸ドットパターンを加工することにより,物体形状と表面テクスチャー同時に感じるものを実験刺激として作成し,fMRI実験を実施した。その結果,触覚による対象形状と表面テクスチャー識別の脳内処理ネットワークの違いが検討でき,おおよそ予定している成果が得られた。現在,これらの成果を中心とした論文原稿が完成し,関係学術論文誌へ投稿した。以上の進行状況と研究成果を総合的に判断し,本研究課題は概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,本研究計画の最終年度であり,以下の3項目を実施する予定である。1. 安静時fMRIデータとDTIデータの解析と触覚による対象質感認知メカニズムの検討。前年度のfMRI実験を実施すると同時に,安静時fMRIデータとDTIデータも取得した。今年度は,まずそれらのデータ解析を進め,触覚による対象質感認知メカニズムを検討する。2. 超高磁場機能的磁気共鳴画像法(7T-fMRI)を用いてヒトの体性感覚野の機能的役割の検討。本年度から最新鋭の7T-fMRIが使用可能な段階になり,触覚による対象識別する際の体性感覚野の機能的役割がより詳細に検討できるため,追加で実験を実施する予定である。3. 触覚認知能力検査方法の提案と認知症早期発見への展開。代表者らは,これまでの研究で開発した触覚認知機能検査装置を元に,本研究で得られた最新知見を適用して新たの触覚認知能力検査方法を提案する。さらに,軽度認知症患者及び認知症患者を対象に検証実験を実施する予定である。
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