該当年度は主に基礎的な知覚過程を明らかにする目的で様々な実験的な検討を行い国際誌への報告を行った。 1つ目は、より基礎的な過程である両眼間の抑制に関する発達について検討したものである。この研究では、いわゆるcontinuous flash suppressionのパラダイムを用いて、乳児の片側の眼に顔画像を呈示しもう一方の眼に呈示されたモンドリアンパターンによりこの顔画像が抑制されて見えなくなるかどうかについて乳児を対象に検討した。その結果、生後5-6ヶ月の乳児には抑制が生じたが、2-3ヶ月児には抑制が生じず、顔画像への選好注視が見られた。このことは生後2-3ヶ月の乳児は両眼間の抑制が未発達であるが故に、逆に大人には見えていない単眼の情報がそのまま見えている可能性を示唆している。 2つ目は、自然な物体の視覚情報と聴覚情報の統合過程に関する検討である。具体的には水と氷という自然物を用いて、同じ容器から「水が流れ出す動画」と「氷がこぼれ落ちる動画」を準備し、その動画の視覚情報と音情報を組み合わせることで、「自然な音とき動画」への選好注視を検討した。その結果、生後5か月の乳児は、水の動画でのみ、自然な動画への選好が見られた。このことは、「水」という物体の視聴覚的な特徴を、5か月の乳児がすでに持っていることを示唆している。これらの知覚発達は、質感知覚がどのように獲得されていくのかについて、その乳児段階での発達的な側面を明らかにしている。
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