研究領域 | 多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出 |
研究課題/領域番号 |
18H05015
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
伊村 知子 日本女子大学, 人間社会学部, 准教授 (00552423)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光沢知覚 / 鮮度知覚 / 質感 / 比較認知 / 知覚発達 |
研究実績の概要 |
本研究では、チンパンジーとヒトの成人、児童を対象に、実世界の多様な人工物や自然物の質感の識別と選好について検討することにより、質感知覚の種を超えた普遍性と特殊性、文化・社会的な影響を明らかにすることを目的としている。 ヒトの児童を対象とした研究では、質感の中でも特に光沢に着目し、(1)光沢の強さ、(2)光沢か塗装かの識別能力の発達について検討した。また、素材の識別能力として、(3)ガラスと銀の識別、(4)黄色のプラスティックと金の識別能力の発達について検討した。本年度の前半は、実験計画の検討や実験準備をおこない、7,8月頃から6歳から12歳の児童を対象に、各実験につき36名ずつ、予備実験を含めて150名を超える実験データの収集をおこなった。また、得られたデータを分析した。 チンパンジーを対象とした研究では、質感と食物選択の関連性について探るため、食物のツヤやハリなどの光沢の質感知覚に着目した。先行研究ではチンパンジーが葉物野菜の表面の光沢を手がかりに鮮度の違いを識別できることが示されている。そこで本研究では、鮮度の識別が複数の対象に対しても同様に可能かどうかを調べた。本年度の前半は実験計画の検討や実験準備をおこなった。7,8月より2個体のチンパンジーを対象に実験を遂行した。ヒトを対象に同じ手続きで実験をおこない、鮮度の識別能力を比較した。得られたデータを分析した。 以上の研究結果をもとに、質感の識別能力の発達過程とヒトとチンパンジーに共通の進化的基盤について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、主として人工物や自然物の質感の識別に関して、ヒトの児童の知覚発達の過程およびヒトとチンパンジーに共通の進化的基盤を明らかにすべく、2つのテーマで実験を遂行した。これまでのところ、概ね順調に進んでいる。 ヒトの児童を対象とした質感識別の研究では、同じ光沢の識別でも、光沢の強さの識別成績が児童期の前半から後半にかけて上昇するのに対して、光沢か塗装の識別成績は、児童期を通じてほとんど変化せず、児童期後半でも十分な識別が困難である可能性が示された。また、ガラスと銀の識別、黄色のプラスティックと金の識別といった素材の識別については、児童期前半からすでに十分に識別できることが示唆された。 チンパンジーの成体を対象とした鮮度識別の研究では、鮮度の異なる葉物野菜の画像を6枚ずつセットにして画面の左右に呈示し、チンパンジーが全体としてより鮮度の高い方を選択できるかを調べた。また、成人でも同様の課題を用いて、実験をおこない正答率を分析した。その結果、チンパンジーもヒトも複数の対象の全体の鮮度の違いをある程度識別できることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果を踏まえ、次年度は、実世界の多様な人工物や自然物の質感の識別だけでなく選好についても検討する予定である。ヒトの児童を対象とした質感識別の研究では、成人を対象に同様の実験を実施し、最終的には成人と児童の比較から光沢の知覚や素材の識別の発達過程を明らかにする。さらに、質感知覚がもたらす感性的側面の発達を明らかにすべく、ヒトの児童を対象に、絵画の色彩の組み合わせに対する選好や、成人では不快感を喚起する集合体恐怖画像に対する感性的評価についても検討する予定である。また、チンパンジーを対象に、絵画の色彩の組み合わせの違いに対する情報処理の違い、チンパンジーの配偶者選択に関わる社会的シグナルとしての光沢への選好を検討することにより、感性的質感知覚の進化的基盤についても明らかにする。
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