公募研究
脳梗塞では、脳虚血の開始時の病態は可逆的(未病)であるが、神経細胞死が誘導され、神経障害の不可逆化が成立する。これらのイベントカスケードの中で、死細胞に由来するDAMPsが誘導する炎症反応が、カスケードを再増幅させ、神経障害の不可逆化を一層増強していることが推察される。したがって、未病の時期に、死細胞の除去を促進させ、DAMPsが誘導する炎症を制御することができれば、病態を可逆的に回復させたり、神経障害の軽減あるいは不可逆化を遅延することが可能と考えられる。しかし、この神経障害に至る一連の分子機構は充分に解明されていない。応募者らは、アポトーシス細胞の細胞膜上に表出するphosphatidylserein (PS) の受容体である抑制性免疫受容体CD300aを同定した。本研究では、虚血ストレスにより誘導される死細胞から放出されるDAMPsによる炎症病態の開始、増幅、遷延化の分子機構を解明し、CD300aが、炎症の遷延化を阻止し、神経障害を可逆的に回復させ、その不可逆化を予防できる有力な標的因子である華道家をし、その分子機構を詳細に解明するとともに、その成果を基盤とした脳虚血疾患の予防法の開発を行う。平成30年度には、虚血ストレスによる炎症病態の分子機構の解析を行った。虚血発症から神経細胞死に至るまで継時的に虚血組織の構成細胞、活性化、遺伝子発現、細胞死について、免疫組織学的解析やフローサイトメトリーによる蛋白発現解析を、包括的に解析した。その結果、虚血部位のコア領域では発症1~3時間でアストロサイトの細胞死と、これに伴う炎症細胞の浸潤を認め、その後、神経細胞の死が始まる。その後、炎症が波及し、コア虚血部位の周辺領域であるペナンブラ領域の神経細胞死が誘導されることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、虚血ストレスにより誘導される死細胞から放出されるDAMPsによると考えられる炎症病態の開始、増幅、遷延化について、神経細胞のほか、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアなど種々の支持細胞で構成される脳組織の場をモデルとして解明する。さらに、貪食細胞に発現するCD300aが、炎症の遷延化を阻止し、神経障害を可逆的に回復させ、その不可逆化を予防できる有力な鍵因子であることを確認し、その分子機構を詳細に解明するとともに、その成果を基盤とした脳虚血疾患の予防的分子標的療法の開発を行う。平成30年度までに、虚血ストレスによる種々のグリア細胞と神経細胞の死の時空間的経過を明らかにすることができた。これは、今後の虚血による組織障害の分子機構を解明するための重要な知見を与えてくれ、その制御法の開発のための一歩となりうる研究成果である。また本領域の計画研究では、種々の臓器の線維化を誘導する慢性炎症病態における個々の炎症細胞や組織環境およびその相互関係の解析が行われている。一方、虚血性ストレスなどによる急性疾患においても、タイムスケールの違いはあるものの、同様に炎症細胞社会が成立し、その遷延化により不可逆的な臓器障害に至るメカニズムには類似の点が多い。本研究成果は、急性疾患の観点から炎症像を解析することで、炎症細胞社会学の包括的な理解に貢献できる。
(1) 虚血ストレスによる炎症病態の分子機構の解析虚血ストレスにより、はじめに中枢神経の支持細胞の死が開始される。この死細胞から放出されるDAMPsによる炎症病態の開始、増幅、遷延化の分子機構を明らかにする。そのために、虚血発症から神経細胞死に至るまで継時的に虚血組織の構成細胞、活性化、遺伝子発現、細胞死、DAMPsの変遷について、1)免疫組織学的解析、2)包括的1細胞遺伝子発現解析(総括班が設置する炎症細胞社会解析センターに支援を依頼)、3)フローサイトメトリーによる蛋白発現解析を、包括的に解析する。(2) CD300aを介した貪食抑制メカニズムの解明CD300aによる貪食抑制は、CD300aのITIMsを介したチロシンフォスファターゼのリクルートによって、死細胞貪食を促進するMerTKの細胞内チロシンのリン酸化を抑制していることによるという作業仮説を提唱し、これを検証する。(3)CD300aを標的とした脳虚血疾患の予防的分子標的療法の開発応募者らは、マウスに脳虚血開始直後に一回の抗CD300a中和抗体の全身投与により、遺伝子欠損マウスと同様に、著明に梗塞巣が縮小し、神経障害が軽減する結果を得た(図9)。この結果は、CD300aを標的とした脳虚血による神経障害の予防が可能であることを示唆する。実臨床を想定して、脳虚血開始後それぞれ3時間、4時間半、6時間に抗CD300a中和抗体を一回投与し、神経障害の有無、程度を解析する。同時に、これらのマウスで継時的に(1)で行った1)-3)による包括的解析を同様に行い、炎症病態の経過と神経障害の可逆性、不可逆性についての関連を明らかにする。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 11件、 査読あり 10件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 4件、 招待講演 7件) 備考 (3件) 産業財産権 (1件)
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