研究領域 | 予防を科学する炎症細胞社会学 |
研究課題/領域番号 |
18H05025
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村上 誠 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (60276607)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アレルギー / 脂質 / アトピー性皮膚炎 / マスト細胞 / リピドミクス |
研究実績の概要 |
環境因子に対する皮膚バリアの撹乱により異物が過度に経皮侵入すると2型免疫が活性化し、難治性の慢性皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎へと進展するとともに、遠隔臓器に鼻炎、喘息などの慢性アレルギー疾患を招く。したがって、皮膚バリアの適切な統制はアレルギーの予防を考える上で喫緊の課題である。本研究は、脂質を基軸に皮膚バリアの恒常性(未病)からその破綻(遷延化)、更には慢性アレルギー(不可逆化)へと移行するプロセスの分子機構を明らかにすることを目的とする。本年度は以下の成果を得た。 1. 表皮バリアの統制に関わる新しい脂質代謝経路の探索:脂質代謝関連分子群の欠損マウスのうち、通常飼育下で皮膚バリアに乱れが生じている系統を、経皮水分蒸散量の増加ならびに一次刺激性皮膚炎の増悪を指標にスクリーニングし、脂質代謝酵素PLA2G3と脂質受容体(FP)を皮膚バリア統制に関わる候補分子として選別した。PLA2G3欠損マウスに抗原を投与すると2型免疫が亢進し、アトピー性皮膚炎の増悪が見られた。皮膚リピドミクス解析を通じて、PLA2G3がFPのリガンドであるPGF2aの産生に関わることを確認した。更に、ヒト皮膚においてPLA2G3とFPの発現は相関していた。加えて、皮膚疾患に伴い発現誘導される別のPLA2を複数見出し、その欠損マウスの解析を開始している。 2. マスト細胞微小環境の統制に関わる新しい脂質代謝経路の探索:マスト細胞の状態を反映する抗原依存的受動皮膚アナフィラキシー(PCA)を脂質代謝関連分子群の欠損マウスに適用し、アレルギー応答が変化する系統をスクリーニングした結果、脂質代謝酵素PLA2G12Aと脂質受容体LPA1をマスト細胞微小環境の統制に関わる候補分子として選別した。予備的な検討結果として、PLA2G12Aはマスト細胞活性化に、LPA1はマスト細胞の成熟に寄与することを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年前に現所属機関に異動したが、これに伴う欠損マウスの凍結胚からの復元に時間を要している。本研究に必要なマウスは前年度中にほぼ復元したが、組織特異的欠損マウスは何度か交配を重ねる必要があるためまだ実験に使用できる段階に達しておらず、当初予定していた研究計画の一部については遅れが生じている。一方で、当初は予想していなかった新しい発見もあり、総合的に見て本研究は概ね順調に進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1. 表皮バリアの統制に関わる新しい脂質代謝経路の探索:前年度中に、脂質代謝酵素PLA2G3と脂質受容体(FP)を皮膚バリア統制に関わる候補分子として選別した。本年度はこの二系統を中心に、抗原暴露による2型免疫の亢進、アトピー性皮膚炎の発症、更にはアレルギー喘息の増悪(アレルギーマーチ)へと進展する過程を解析する。初代皮細胞培養系を用い、細胞増殖、分化、活性化に対する当該脂質代謝関連分子のノックアウトの影響を精査するとともに、FPアゴニストによるレスキュー効果を検証する。更に、皮膚疾患に伴い発現誘導される新規PLA2の欠損マウスの解析を発展させる。欠損マウスを領域の推進する一細胞トランスクリプトームに供し、各PLA2とその代謝産物の作用機序の解明を目指す。 2. マスト細胞微小環境の統制に関わる新しい脂質代謝経路の探索:前年度中に、脂質代謝酵素PLA2G12Aと脂質受容体LPA1をマスト細胞微小環境の統制に関わる候補分子として選別した。本年度は初代培養系を用い、マスト細胞と線維芽細胞の相互作用に対する当該脂質代謝関連分子のノックアウトの影響を精査するとともに、マスト細胞微小環境のリピドミクスにより、マスト細胞の量または質と関連する脂質代謝物を探索する。特に、PLA2G12Aによるマスト細胞活性化に関わる責任脂質の同定、LPA1によるマスト細胞の成熟の分子機構の解明に焦点を当てて解析を進める。 また別途、多系統の脂質関連の欠損マウスやリピドミクス技術などの解析ツールを適宜班員と共有することで、領域の推進に貢献する。
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