公募研究
健康寿命に対する抜本的な対応には、老化制御機構の俯瞰的理解と、老化に伴う加齢性疾病や、臓器・組織の機能低下を予防する技術の開発が必要不可欠である。近年、モデルマウスを用いた遺伝学的解析から、老化制御機構の解明に大きなパラダイムシフトが生じた。すなわち、老齢個体から人工的に老化細胞を除去すると、加齢性疾病の発症が有意に遅れ、さらには寿命そのものも延長することが示された。個体老化や加齢性疾病の発症の原因は、炎症性サイトカインなどを分泌する老化細胞特有の炎症応答 『SASP』が組織微小環境に多数の慢性炎症場を形成することが要因である可能性が示唆されているが、はっきりとした結論に至っていない。さらに、生体内において老化細胞が周囲の細胞の遺伝子発現やエピゲノムにどのような影響を与えているかは全くもって不明である。本研究では、老化細胞特異的なノックアウトマウスや超高感度老化細胞イメージングマウスといった申請者のこれまでの研究に立脚した新規マウスモデルを用いた解析とともに包括的1細胞遺伝子発現解析技術を利用することで、老化細胞によって生じる炎症応答が個体老化・加齢性疾病発症に及ぼす影響を分子・細胞・個体の各レベルで統括的に明らかにすることを試みた。当該年度は、老化細胞を特異的な遺伝子改変を可能とするために、細胞老化マーカーであるp16INK4A遺伝子プロモーターの下流にCre-ERT2遺伝子を発現するp16INK4A-CreERT2マウスを樹立した。さらに、このマウスとROSA-RainbowやROSA-lsl-tdTomatoといったマウスと交配し、生体内の老化細胞の可視化を行った。その結果、様々な臓器・組織で0.1-1%程度の老化細胞が一細胞レベルで検出可能であること、DNA損傷や加齢に伴い、その割合が増加することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、生体内における老化細胞を一細胞で可視化することを可能としたマウスモデルの樹立に成功したため。
今後は、樹立した老化細胞可視化マウスを用いて、様々な組織・臓器における包括的1細胞遺伝子発現解析を行うことで生体における老化細胞の特性・起源を明らかにする。また、加齢性疾病モデルマウスと交配することで、各種病態の老化細胞の特性に関しても明らかにする。さらに、p16INK4A-CreERT2マウスとROSA-lsl-tdTomato-IRES-DTAマウスを交配し、老化細胞を除去した際に周辺の細胞の遺伝子発現どのように変化するかに関しても括的1細胞遺伝子発現解析により明らかにする。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
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