研究実績の概要 |
腸は優れた再生能力を持ち、損傷後、さまざまな細胞腫が上皮再生に関与することが報告されている。例えば、予めLgr5+腸幹細胞(intestinal stem cell, ISC)を除去しておくと損傷腸の再生が起こらないこと、Dll1+分泌系前駆細胞が損傷腸ではISC に脱分化すること、細胞周期上休止期にある一部のISC はMex3a を発現しており腸再生に寄与すること、YAP シグナル依存性の Clu+revival SC(revSC)が損傷後の上皮再生に重要なこと等である。しかしながら、それら細胞種の貢献度の軽重や主たる起源細胞は未同定である。我々は、細胞運命追跡技術を用いて、分泌細胞系列由来ではなく、腸上皮幹細胞由来の細胞が損傷腸における主たる再生起点細胞であることを見出した。さらに、シングルセルqPCR 解析により、当該再生起点細胞は極めてヘテロな集団であり、YAP 標的分子の1つであるSca1 の発現レベルが起点細胞の幹細胞性と逆相関することも判明した。この結果は、YAP/Wnt シグナルのバランスが損傷腸における起点細胞の再生能力を決定することを示唆していた。さらに、損傷腸から腸上皮幹細胞由来のSca1-細胞を精製してシングルセルRNAseq を行ったところ、tetraspanin family member の1つであるCD81 の発現が同細胞の幹細胞関連遺伝子発現と相関することが判明した。実際に、損傷腸におけるオルガノイド形成能は、主にCD81hiSca1-細胞に限局していた。損傷腸における主たる再生起点細胞の同定は、関連長疾患の治療戦略に貢献することが期待される。
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