研究領域 | 予防を科学する炎症細胞社会学 |
研究課題/領域番号 |
18H05032
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 荘 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 准教授 (60619716)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 疾患特異的マクロファージ / 線維症 / 自然免疫 |
研究実績の概要 |
抗癌剤として使用されているブレオマイシン(BLM:3μg/ g体重)の肺への投与は肺上皮細胞の障害を起こし、最終的には線維症を引き起こす。この際に障害を受けた上皮は細胞死を起こし、様々な内因性のリガンドを放出し、炎症応答やSatMの活性化に寄与すると考えられる。この実験系を用いて、線維症モデルの炎症期に障害を受ける肺上皮細胞に着目して経時的にマイクロアレイ解析を行い、BLM未投与時に回収した肺上皮細胞の遺伝子発現データを比較したところ、Skiv2Lを含む4個の疾患関連遺伝子の候補が得られた。本年度はこれらの遺伝子欠損マウスを作製し、野生型と共にBLMの投与行うことによって、肺線維症の寄与を検討した。具体的には、BLMを投与し、体重の減少率を測定する他、肺組織におけるCol1A1やActa2等の線維症の発症に伴って変動する遺伝子発現を検討した。また、Azan染色を行って肺組織の線維化の程度の組織学的解析を行い、病態の進行度を検定する。野生型のマウスにBLMの投与後、血中や肺洗浄液中で変化するミエロイド細胞を経時的にサンプルを回収することによって、FACSを用いて検討した。また、線維化期にSatMが肺に遊走してくるかを検討した。その結果、いくつかの分子に関しては耐性になる傾向が得られた。 耐性となったKOマウスに関して、BLM肺線維症モデルは急性の線維症モデルであり、その他の線維化モデルへの影響も検討する必要がある。したがって、作製したKOマウス及び野生型マウスに、尿管結紮による腎線維症モデル、コリン欠乏高脂肪食飼料を用いた肝線維症モデルを実施し、野生型と比較してその影響を検討した。 さらに、BLMに対して耐性を示したKO由来細胞と野生型の細胞の遺伝子発現の変化を経時的にRNA-seq解析を行うことによって捉え、その発現パターンの比較・解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画書通りに、初年度に非免疫系で機能し、線維化の抑制に関わる分子を既に同定している。それらのマウスを使って、組織学的、生化学的、分子生物学的に線維化が抑制されていることを証明した。さらに、非免疫系で同定した分子が機能していることを証明するために、研究計画書には無かったが、骨髄移植をおこなってマウスを作出し、非免疫系で該当分子が欠損しているときに線維症に耐性になり、免疫系で欠損しても線維化が発症することを明らかにした。 また、BLMを用いた線維症モデルだけでなく、尿管結紮による腎線維症モデル、コリン欠乏高脂肪食飼料を用いた肝線維症モデルを実施し、これらのモデルでもKOマウスでは耐性になることを証明した。更に、これらのモデルに対しても骨髄移植のマウスを用いて実験を実施し、非免疫系で該当分子が欠損しているときにのみ線維症が抑制されることも明らかにした。 KO細胞と野生型細胞の遺伝子発現の変化をRNA-seq解析を行うことによって捉え、その発現パターンの比較・解析を行った。その結果、タンパクをコードしている遺伝子に関しては殆どさが見られなかった。しかし、non-coding RNAやantisense RNAに関してはKO細胞で発現が著しく上昇している事が分かった。そこで、計画書には当初記載していなかったが、本分子はRNA結合に関わるドメインを持っているので、該当分子と結合するRNAを同定するために、RNA-immunoprecipitation on sequencing (RIP-seq)を行った。その結果、該当分子と結合する分子が複数えられた。この結果と、RNA-seqの結果を合わせて検討した結果、9つのRNAが結合候補RNAとして明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究からKOマウスでは様々な線維症に耐性になることが分かったが、今後はそれがどのようなメカニズムで線維化が抑制されているかを検討する。該当分子は線維化が起こり始める直前から該当臓器で発現が著しく上昇することも明らかになっている。そこでこの分子の発現に伴って臓器で起こる現象について組織学的、生化学的、分子生物学的解析を行う予定である。また、該当分子と結合する分子の同定を行うことにより、この側面からも線維化抑制メカニズムについて検討を行う予定である。現在すでに、HEK293細胞に該当分子を強制発現させて免疫沈降を行ったサンプル、及びコントロールベクターを強制発現させて免疫沈降を行ったサンプルを作製しており、現在はこれら4回分のサンプルに関して質量分析解析を行っている途中である。 また、今年度の研究からnon-coding RNAやantisense RNAなどの9つのRNAが該当分子と結合し、分解されていることを明らかにした。この9つのうち、どのRNAが該当分子欠損下に於ける線維化抑制の原因となっているかを検討する。KOマウスにin vivoノックダウン試薬を用いて発現抑制を行い、更にBLMを投与することにより、これらのRNAの発現を落とした時に線維症が再発するかどうかを検討し、疾患の原因となっているRNAの同定を試みる。さらに、どの様な因果関係でKOで発現が上昇しているRNAが線維化抑制につながっているかという分子メカニズムの検討を行う予定である。
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