研究領域 | 予防を科学する炎症細胞社会学 |
研究課題/領域番号 |
18H05035
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松田 秀雄 大阪大学, 情報科学研究科, 教授 (50183950)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞イメージング解析 / 免疫細胞 / 1細胞トランスクリプトーム解析 / バイオインフォマティクス |
研究実績の概要 |
1.免疫細胞の動態解明のためのイメージング解析 免疫細胞の動きを2光子励起顕微鏡で得られた経時観察画像のイメージング解析により検出する手法を開発した。従来法での動きの検出は、撮像条件や画像の種類に依存して手法を検討する必要があり、汎用的な方法論の開発の要求があった。そこで、追跡する細胞の特徴を深層学習により取得することで、より精度の高い追跡が行える手法を開発した。具体的には、一般物体追跡のデータセットで事前学習した畳み込みニューラルネットワークに対して、2光子励起顕微鏡での免疫細胞の動態を観察したデータに転移学習することで、細胞の追跡が可能であることを示した。さらに、深さ方向に重なっている画像から、最大輝度投影法による投影で得られる物体中の輝点の深さ情報を追加することで、細胞追跡の精度がさらに向上することを示した。 2.1細胞トランスクリプトーム解析でのバッチ補正法の開発 1細胞トランスクリプトーム解析では、異なるシーケンシング法で得られたトランスクリプトームデータには、それぞれに異なる欠損やノイズにより生じるバッチと呼ばれる系統的なバイアスが存在し、異なるデータを比較・統合したデータ解析の妨げとなっていた。そこで、欠損値やノイズの影響を受けにくい潜在的ディリクレ割当て(LDA)によるトピックモデルを使って、各トランスクリプトームデータからトピックと呼ばれる潜在的因子を検出し、それらをプロクラステス解析により重ね合わせることで、複数のトランスクリプトームデータを比較・統合できる手法を開発した。従来のバッチの補正法では、補正すべきトランスクリプトームデータすべてに対してデータ変換が必要であったが、本手法では新たに付け加えるデータのみの変換で済むため、大規模なトランスクリプトームデータの比較・統合が従来法と比べて容易にできることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
免疫細胞のイメージング解析では、2光子励起顕微鏡で得られた経時観察画像の深層学習により学習することで、より精度の高い細胞追跡が行えることが示された。また、1細胞トランスクリプトーム解析では、潜在的ディリクレ割当て(LDA)によるトピックモデルとプロクラステス解析により、異なるトランスクリプトームデータに存在するバッチを補正することで、比較・統合を行えることが示された。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に引き続き、2光子励起顕微鏡により経時的に観察された生体組織画像中での免疫細胞の遊走動態を解析する。具体的には、炎症刺激(例えば高脂肪食負荷)についての経過時刻の異なる生体組織中の免疫細胞の動態を比較することで、急性炎症時と慢性炎症時の細胞動態の差異を判別することを目指す。また現在までに開発された深層マッチングによる遊走動態法を拡張し、時間的に隣接する画像フレームだけでなく、空間的に深さ方向で隣接する画像フレームでも深層マッチングを行うことで、遊走細胞の深さ方向も含めた3次元的な動態を解析するとともに、細胞領域の検出(セグメンテーション)にグラフカット法を応用することで検出精度を向上させる。 次に、1細胞トランスクリプトーム解析では、炎症刺激の開始からの経過時刻の異なる生体組織中の免疫細胞の1細胞発現プロファイルから、得られた各細胞単位の遺伝子発現量のセットを各細胞の刺激応答の時系列上で占める位置を推定する手法を開発する。特に、細胞の状態変化は複数の系列で進む(同じ刺激に対する複数の応答に相当する)ことがあり、疑似時間を形成する細胞の系列は分岐を含む木構造を取るため、本研究でも分岐を含む経路に沿って疑似時間を推定できる手法の確立を目指す。さらに、解析結果を基に、炎症状態での免疫細胞の遊走動態を、数理モデルを作成して、そのモデルに基づいて遊走シミュレーションを行い。数理モデルの妥当性を判定する。
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