研究領域 | 予防を科学する炎症細胞社会学 |
研究課題/領域番号 |
18H05041
|
研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
森口 尚 東北医科薬科大学, 医学部, 教授 (10447253)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | GATA2 / 炎症性サイトカイン / 感染防御 / 敗血症 |
研究実績の概要 |
転写因子GATA2は炎症性サイトカイン遺伝子の発現を活性化し、炎症惹起に関わることがわかった。さらに、GATA2欠損が全身的な炎症に与える影響についても解析を進めた結果、リポ多糖(LPS)投与による急性の敗血症誘導に対して、GATA2へテロ欠損マウスは有意に耐性を示した。敗血症病態形成にはヒスタミン産生細胞が重要な役割を担うと考え、ヒスタミン産生細胞を生体内でモニターできるレポータートランスジェニックマウス(Hdc-GFPマウス)を樹立し、敗血症時のヒスタミン産生細胞の遊走を解析した。その結果、LPS誘導性敗血症時には、肺にヒスタミン産生細胞が最も顕著に遊走され、GATA2へテロ欠損マウスではヒスタミン産生細胞の遊走が軽減した。次に、細菌感染による敗血症モデルとして盲腸結紮穿孔(CLP)腹膜炎誘導に対するGATA2へテロ欠損マウスの感受性を検討した。その結果、GATA2へテロ欠損マウスではCLP腹膜炎による急性期の炎症誘導は抑制されたが、細菌感染の遷延とそれに伴う慢性炎症を示すことがわかった。これらの結果から、GATA2は急性期炎症惹起にかかわる一方で、病原細菌に対する防御機構を担う機能を持つと考えられた。GATA2を発現する培養マスト細胞を用いたChIPシーケンス解析から、IL4、IL13、IL6などの遺伝子座にGATA2の結合サイトが存在することがわかった。これらのサイトカイン遺伝子はLPS処理により発現誘導されるが、GATA因子阻害剤であるミトキサントロン処理によりこの発現誘導がキャンセルされた。炎症性サイトカイン遺伝子座へのGATA2結合量はLPS処理後も有意な変化を示さなかった。これらの結果からGATA2はLPS刺激に応答する他の因子と協調して機能することにより、炎症性サイトカイン遺伝子の発現誘導に関わると推測された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
敗血症誘導による肺での急性炎症に対して、転写因子GATA2が症状を増悪させる作用があることが新たに分かった。この過程でGATA2はヒスタミン産生細胞の遊走を促進する機能をもち、このヒスタミン産生細胞が好中球の一群であることが分かった。今後、これらの好中球の遊走を抑制することにより、敗血症による肺障害に対する治療法開発につながる可能性があると考えている。また、これらの解析の過程でヒスタミン産生細胞をモニターできるレポータートランスジェニックマウス(Hdc-GFPマウス)を樹立した。本マウスは今後の解析に有用なツールとなった。マスト細胞の培養細胞を用いたChIPシーケンス解析から、IL4、IL13、IL6などのサイトカイン遺伝子群がGATA2の標的遺伝子であることがわかった。GATA因子阻害剤であるミトキサントロンが炎症時のサイトカイン遺伝子発現誘導を抑制することから、抗炎症効果が期待できることもわかった。一方で盲腸結紮穿孔(CLP)腹膜炎誘導では、GATA2が急性期炎症惹起にかかわるが、病原細菌に対する防御機構を担う機能も持つことがわかった。このことは、GATA2遺伝子欠損により発症する特発性免疫不全症候群の病態を理解する上で重要な結果となると考えている。GATA因子阻害剤は病態と病期に基づいて適応症例を検討すれば、新たな抗炎症薬としての可能性があると考えられた。以上の結果から、本研究課題の進捗は概ね順調と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
GATA因子阻害剤やsiRNA等の小核酸分子によるGATA因子抑制が気管支喘息などの炎症性・アレルギー性疾患の治療効果をもたらすか、マウス疾患モデルを用いて検討する。GATA2の標的遺伝子となる、IL4、IL13、IL6などのサイトカイン遺伝子群のGATA因子結合配列の機能を調べるためにシスエレメントターゲティング細胞株や遺伝子改変マウスを樹立する。
|