研究領域 | 予防を科学する炎症細胞社会学 |
研究課題/領域番号 |
18H05046
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
本村 泰隆 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (10587794)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肺線維症 / 自然リンパ球 |
研究実績の概要 |
特発性間質肺炎(IIPs)は、原因が特定できない間質性肺炎の総称であり、特定疾患に指定された難病である。IIPsのなかでも半数を占める特発性肺線維症(IPF)は平均余命3-5年と予後不良であり、未だその病態メカニズムは不明で根治薬も存在しない。 自然免疫系の新しいリンパ球である2型自然リンパ球(ILC2)の抑制機構を欠失したマウスが加齢に伴い肺線維症を自然発症することを見出し、このことから肺線維症の病態形成にILC2が重要な役割を担っていることが示唆された。そこで、この肺線維症自然発症マウスを用いて、発症前(未病期)、発症時、発症後の増悪期に分けて解析を行った。その結果、未病期においてILC2がすでに活性化しており、サイトカインであるIL-5、IL-13の産生亢進が確認された。ILC2が産生するIL-5は好酸球浸潤を誘導することが知られているが、実際にこのマウスでも肺線維症発症前において好酸球浸潤が観察された。そして、その後、このマウスの肺において線維化が発症し、進行していくことが明らかとなった。このことから、未病期において加齢性の変化がILC2の活性化を誘導し、このILC2の活性化が起点となり線維化を引き起こしていることが考えられた。また、ILC2が誘導する好酸球が、線維化の発症に関与していることが推測された。さらに、肺線維症の病態の進行に伴う肺組織全体の変化を一細胞レベルで解析するため、肺組織を用いたシングルセルRNAseq解析を用いて肺線維症自然発症マウスの肺で起こる線維化の全貌を明らかにしようと試みた。その結果、これまでの結果と同様に未病期におけるILC2の活性化が一細胞レベルにおいても確認できた。今後はこのデータを元にILC2を中心とした細胞間ネットワーク解析を行うことでILC2のみならず他の細胞群の細胞動態およびそれらの相互作用を解析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が樹立した肺線維症自然発症マウスの肺を経時的に解析することで、秩序だった正常な肺組織が肺線維化という無秩序な状態へとどのように移行し、そこへILC2がどのように寄与するのかを解き明かすことを目的としている。本年度は、我々の肺線維症自然発症マウスは約18週齢で肺線維症を発症することから、この時期を基準に未病期、発症期、増悪期に分類し、各時期の肺を用いてフローサイトメトリーおよびシングルセルRNAseq解析を行うことで、未病期から発症期、発症期から増悪期に至る間に起こる肺での細胞動態を明らかにすることを計画していた。フローサイトメトリー解析から、ILC2の活性化が未病期で起こること、その活性化に続いて線維化が発症することを見出した。ILC2以外にも好酸球を始めとする顆粒球、マクロファージの細胞動態が肺線維化に伴い変動することを明らかにした。さらに、シングルセルRNAseq解析を用い、肺線維症の進行に伴う細胞動態を一細胞レベルにおいて解析を行った。その結果、未病期におけるILC2の活性化が確認でき、各肺の細胞群の変化を観察することができ、おおむね順調に計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
肺線維症自然発症マウスを用いた未病期、発症期、増悪期における肺のシングルセルRNAseq解析を行ったことにより、未病期におけるILC2の活性化が肺線維化の発症の起点となっていることが考えられた。そこで、このシングルセルRNAseq解析のデータを元に未病期におけるILC2を中心に肺組織において変動する遺伝子群を抽出し、その中から線維化の発症に関与する遺伝子の同定を行う。さらに同定した遺伝子の中から、線維化に先駆けて発現するバイオマーカーとなる遺伝子を探索し、検証することで肺線維症の予防を可能にするバイオマーカーを同定する。さらに、ILC2を中心とした細胞間ネットワーク解析を行うことで、線維化が加齢に伴い発症・増悪する過程でどのような細胞が、どういった因子によって、どの細胞に影響を与えることで線維化に至るのかを明らかにする。これらの解析で得られた現象を再度フローサイトメーターにより解析することで、肺線維化という病態の全貌を明らかにする。
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