非感染性の炎症である自然炎症は、死細胞、特に細胞膜が破綻したネクローシス細胞から放出される自己由来のリガンド(内因性リガンド)が原因となって引き起こされると考えられている。しかし、生体内(組織内)において死細胞からどのように炎症反応が惹起され、伝播し、遷延化していくのか、そのメカニズムはよくわかっていない。そのような状況下において、研究代表者は、炎症を惹起しないネクローシス型の制御された細胞死が生理的な環境下の生体内において誘導されていることを発見した。この細胞死は胚発生期の骨(特に骨表面)の形成に関与することを見出し、さらに、オートファジー関連遺伝子Atg9aに依存する(ただしAtg5には依存しない)ことを同定した。そこで、この炎症を惹起しないネクローシス型細胞死の分子メカニズムを詳細に明らかにすることで、炎症を惹起する細胞死としない細胞死の違いを特定し、炎症の惹起・遷延化・慢性化のメカニズムの解明と炎症を予防制御することを目指した。昨年度の研究において、Atg9a依存的ネクローシスの実行メカニズムを明らかにするために、in vitroでAtg9a依存的(Atg5非依存的)にネクローシスを誘導する化合物を同定したが、本年度は、その化合物がどのようにAtg9a依存的細胞死を誘導しているのかを解析し、ある代謝経路の代謝産物の減少が、この細胞死を誘導することを見出した。また、生体内において観察されるAtg9a依存的細胞死においても、この代謝経路に関わる酵素の遺伝子発現が低下していることを明らかにした。この代謝経路の阻害剤は、炎症マーカーの発現を抑制する(抗炎症作用がある)ことが知られており、このことから、Atg9a依存的細胞死においては、炎症を抑えるように準備された形で細胞死が実行されている可能性が示唆された。
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