CryoSat-2およびJason-2、Jason-3、Sentinel3Aの高度計データから海氷による欠損がない海面力学高度データセットを導出した。このデータセットから、研究対象領域であるビンセネス湾ーポインセット岬+トッテン棚氷ードルトンポリニアの沖合には、西からビンセネス渦、ポインセット渦、西サブリナ渦、東サブリナ渦が存在していることがわかった。 海鷹丸による船舶観測で得たCTD(水温・塩分・圧力)データから計算した地衡流プロファイルと海面力学高度から得た流速を一致させることで、ビンセネス渦の絶対流速場を求めた。CTDデータの併用により、渦の東側には暖かい周極深層水の極向き輸送、西側には南極底層水の沖向き輸送があることも判明した。周極深層水が存在する層の流量は0.5Sv(極向き)、南極底層水が存在する層の流量は0.6Sv(沖向き)であった。 ポインセット渦は、海面力学高度を算出する際のジオイド高をEGM2008からGOCO05cに変更して初めて海面力学高度マップ上に現れる渦であり、その存在を確認するべく、2020年1月に海鷹丸による現場観測を実施した。その結果、観測時の流れ自体は弱いものの、ポインセット渦の存在を確認することができた。ポインセット渦の東側にもビンセネス渦と同様に周極深層水の極向き輸送があることも明らかになった。したがって、さらに東に存在する西サブリナ渦や東サブリナ渦でも同様の輸送があり、近年融解速度が増加したトッテン棚氷への熱輸送に寄与していることが推察される。なお、海鷹丸の観測航海では昨年設置した係留系も回収した。 また、解析期間を拡大するため、2011年以前の海面力学高度をEnvisat搭載のRadar Altimeter2のデータから算出する手法を開発した。これにより、2002年から現在までの南極海における海面力学高度の時空間変動が解析可能になった。
|