研究領域 | 熱ー水ー物質の巨大リザーバ:全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床 |
研究課題/領域番号 |
18H05052
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研究機関 | 苫小牧工業高等専門学校 |
研究代表者 |
二橋 創平 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 准教授 (50396321)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 沿岸ポリニヤ / リモートセンシング / 海氷生産量 |
研究実績の概要 |
マイクロ波放射計AMSR-Eによる輝度温度を用いて、高精度薄氷厚推定アルゴリズムの開発を行った。従来のアルゴリズムはマイクロ波放射計による輝度温度の偏波比が薄氷厚(熱的氷厚)と負の相関関係になる特性を用いて開発されている。しかし偏波比と氷厚の散布図は、その分散が比較的大きかった(±5 cm程度)。今年度の解析から、この原因が2つの薄氷の種類(active frazilとthin solid)によることが示された。薄氷の種類は合成開口レーダーによる衛星観測データから判別することが可能である。同じ偏波比の値でも、active frazilの方がより薄い氷厚の関係になることが示された。従来のアルゴリズム(偏波比と氷厚の関係)は、thin solidのものに近かった。従ってactive frazilが卓越する場合は、従来のアルゴリズムでは薄氷厚を過大評価していた可能性があることが示唆された。このことは、これまでの衛星観測による薄氷厚を用いた熱収支計算による海氷生産量の見積もりが、過小評価されていたことを意味する。もしAMSR-Eによるデータから薄氷の種類を検出することができれば、それぞれの薄氷の偏波比と氷厚の関係から氷厚を推定することができる。解析の結果、従来のアルゴリズムで用いられている輝度温度の偏波比に加え、勾配比を用いることにより、薄氷の種類を判別可能であることが示された。この薄氷の種類を考慮した氷厚推定アルゴリズムによる薄氷厚を用いることにより、年間の積算海氷生産量は30-40%改善することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、まず薄氷の種類を考慮した高精度薄氷厚推定アルゴリズムの開発をAMSR-Eによるデータを用いて行った。この研究成果は、IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensingに掲載され、さらに論文中の図の一つが雑誌の表紙を飾った。AMSR-Eによるデータは、2003年から2011年までの期間を使用することができる。2012年には、AMSR-Eの後継機であるAMSR2が打ち上がった。AMSR2のデータを用いることにより、現在までのデータを使用することができる。AMSR2は、AMSR-Eと同じ周波数帯で観測を行っているが、アンテナサイズの改良によりフットプリントサイズがAMSR-Eの約85%となり、空間分解能が改善されている。しかしこれはAMSR-Eデータを用いて開発したアルゴリズムが、そのままではAMSR2データに使えない可能性があることを意味する。そこで、AMSR2データでもAMSR-Eデータを用いて開発されたものと同様な海氷タイプ識別アルゴリズムの開発を行った。AMSR-Eに加えてAMSR2のデータを用いることにより、20年に近い海氷タイプを考慮した薄氷厚データを高空間分解能で作成することができるようになった。さらにマイクロ波放射計GPM GMIによる輝度温度も用いて、同様なアルゴリズム開発を行っている。GMIは主に降水観測に用いられているため、70度より高緯度は観測できないが、沿岸ポリニヤが多数存在する東南極は十分にカバー可能である。これは、耐用年数が既に過ぎてしまっているAMSR2の運用が万が一に停止してしまう場合に備えてのものである。
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今後の研究の推進方策 |
様々なマイクロ波放射計データでのアルゴリズム開発と海氷生産量データセットの作成を引き続き行っていく。まずAMSR2による輝度温度データを用いた高精度アルゴリズムの開発を仕上げる。より高空間分解能のSARデーとの比較から、薄氷の種類検出がうまく行っているかの検証を行う。またGMIによる輝度温度データを用いたアルゴリズム開発も平行して行っていく。さらに空間分解能は粗いがマイクロ波放射計SSM/IやSMMRによる輝度温度を用いた高精度薄氷厚推定アルゴリズム開発も行う。これにより、1970年代以降のデータセットが作成可能になる。これらのアルゴリズムを用いて得られる薄氷厚を用いた熱収支計算から、南極海の全沿岸ポリニヤ域における海氷生産量を見積もる。熱収支計算の気温や風速の気象インプットデータとして、ERA-Interim等のデータセットを用いる。これら異なるマイクロ波放射計から推定される薄氷の厚さ・種類,海氷生産量の相互比較を行い補正し組み合わせることで、40年近い連続して使用可能なデータセットの作成を目指す。
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