土壌や海面、氷床、海氷など地表面と大気の間の熱や物質の交換量 (地表面フラックス) は大気運動にとって重要な役割を果たしている。また、氷床の増加・減少にとっても地表面フラックスは本質的な影響をもつ。数値シミュレーション実験において地表面フラックスを見積もるために用いられているスキームにはいくつかの問題があることが知られており、それがシミュレーションのエラーや不確実性の要因の一つとなっている。 本研究では、既存のスキームがもつ問題を解決した新しい地表面フラックス見積もりスキームの開発に成功した。そして、そのスキームの検証のため、静的不安定大気境界層のラージエディーシミュレーションを行い、従来の手法では 5% 程度地表面フラックスを過小評価する場合があることを明らかにした。また、従来の手法では、シミュレーション解像度を上げると誤差が増大することを明らかにするとともに、新スキームでは解像度に対して地表面フラックスの値が収束することを示し、新スキームの優位性を示した。 南極域などでしばしば観測されるような強い静的安定状態における境界層のシミュレーションにおいても、不安定状態におけるシミュレーションと同様に従来の手法では地表面フラックスは過小評価であることは明らかにした。しかしながら、静的安定時においては解像度に対する収束性は新スキームでも得られなかった。単一カラム実験などいくつかの数値シミュレーション実験の結果、これは強安定状態でのサブグリッド乱流モデルに問題があるためであるとの結論に至った。
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