他者とのコミュニケーションはヒトや動物にとって欠かせない。ヒトは他者とのコミュニケーションから情報を得て自らの経験と統合して効率的に学習する。しかし、動物も“他個体からの情報”と“実体験の情報”を統合できるのか、そして統合の神経基盤に関する知見は乏しい。齧歯類は超音波発声を使って他個体とコミュニケーションを行うが、齧歯類が超音波発声を介して他個体から情報を受容し、自らの経験と統合して学習を補完するかは不明である。これまでに培った行動解析および神経回路解析のノウハウを生かして、他個体からの情報と実体験の統合メカニズムの解析を進めた。 マウスに恐怖条件づけを行う実験箱の上部に超音波域まで録音可能なマイクを取り付けた。実験は防音箱の中で行った。おとりマウスに恐怖条件づけを行う前の5分間と、おとりマウスに条件づけを行っている5分間、計10分間に渡って録音を行った。その結果、条件づけを行う前はほとんど超音波発声が観察されないが、条件づけを行ってからの5分間では超音波発声が観察された。さらにこの超音波発声について解析を進め、周りにマウスがいないときに比べて、マウスがいるときのほうが超音波発声の頻度が大きいことを明らかにした。 さらに恐怖条件づけ時の発声が他個体への行動に与える影響を調べた。上記の実験で得られた恐怖条件づけ時の発声を録音し、他個体に聞かせた。自由に行き来できる2つのチャンバーを用意し、一方にマウスが滞在した場合のみ恐怖条件づけ時の発声を再生した。その結果、録音した音声の全波長帯を再生した場合は、再生チャンバーを忌避した。一方、超音波発声のみを再生した場合は、再生チャンバーを好む傾向が認められた。
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