公募研究
言葉が伝える意味は、いつでも字義通りの意味であるわけではなく、発話が行われた文脈によって変化し得る。自閉スペクトラム症は「字義通りの言語」が診断的特徴の1つである発達障碍であり、自閉スペクトラム者が日常的に直面する社会的コミュニケーションの困難は、言葉を字義通りに解釈しやすい傾向によるものである可能性が考えられる。従来の自閉スペクトラム研究では、たとえば、「塩をとることができますか?」というような間接要求に対して、塩をとって応答すると1点、「はい」「とることができます」のように字義通りの解釈に対応する応答をすると0点というように得点化し、文脈を介した発話意図の推論について検討が行われてきた。より定量的に検討を行うため、自閉スペクトラム者と定型発達者による発話意図の推論に関して確率論モデルを用いて検討を行った。用いたモデルは、発話は合理的、かつ、協力的に行われるという語用論理論の前提が組み込まれたものであった。つまり、聞き手は、話し手がある文脈上で聞き手に伝わりやすい言葉を選択することを想定し、文脈的情報性に基づいて言葉の意味を解釈するということである。今回は、新奇語の意味について推論する過程について検討を行った。まず、一般の人々を対象にしたオンライン調査により、発話意図の対象の推論がモデルに沿うかどうか検討を行った。その結果、実際の推論がモデル予測とよく合っていることがわかった。そのため、この課題を実験室実験用に調整し、自閉スペクトラム者と定型発達者を対象に検討を行った。結果、どちらの群もモデルに沿った行動が見られた。字義通りの言語は、自閉スペクトラム症は診断的特徴ともなっている。しかし、今回の課題のような文脈では、自閉スペクトラム者も話し手の合理性と協力性を前提に、文脈的情報性を用いて言葉の意味を解釈していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
特に問題は起こっておらず、予定通りに計画が進行中であるため。
今後もコミュニケーション意図の推論過程について定量的に検討を行う。指示詞など文脈によって意味が極端に変わる言葉を用いることなどを検討している。
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Autism Research
巻: 11 ページ: 1239-1244
10.1002/aur.1970