研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
18H05066
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中橋 渉 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 専任講師 (60553021)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 言語進化 / 構造性 / 人類進化 / 生活史 / 数理モデル / 文化進化 |
研究実績の概要 |
ヒトの文化技術は、様々な細かい技術(小技術)が法則に従って組み合わされることで、より大きな役割を果たす技術(大技術)となるという構造をしている。これは様々な語句が文法に則って並べられることで1つの意味のある文になるという、ヒト言語の重要な特徴と類似する。このような構造は、他の動物の社会的に伝達される技術やコミュニケーション信号には見られないことから、ヒトの系統においてのみ進化した何らかの能力が双方に関与していると考えられる。そうであるならば、文化技術の構造性に着目することで、その担い手の言語能力を類推することができるはずである。そこでまず、数理モデルの解析によって文化技術の構造を操る能力(構成能力)が文化にどのような影響を与えるかを調べた。その結果、文化技術が構造化されても、段階的学習を必要とする文化技術は、たとえ複数の大技術に共通に使うことが可能な小技術が存在しても、高度化しないが、独立に学習可能な複数の小技術を組み合わせてできる大技術に関しては高度化することを明らかにした。そして、死亡率や負傷率などの生活史パラメータも文化進化に重要な影響を与えることを示した。古人類の生活史を調べた我々の研究から、新人以前の古人類は類人猿よりも寿命が短かったことが示されているが、それが彼らの文化発展を厳しく阻害していたと考えられ、これは新人期における文化発展を言語の出現と結びつけて考える視点に重大な疑問を投げかけるものである。また、言語能力に関係する、現生人類と類人猿や古人類との間の解剖学的相違点について調査を行った。これらの研究成果を、本研究が属する新学術領域「共創的コミュニケーションのための言語進化学」の開催した研究会議や、日本人類学会大会を始めとした一般の研究集会で発表した。また、査読付き国際誌に研究成果の一部をまとめた論文を投稿し、受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語能力の出現を考古証拠から探るには、言語が文化技術の発展にどう影響するかを知ることが必要不可欠である。昨年度はまず、理論モデルによって、言語と類似した構造性を持つ文化技術をもたらす能力(構成能力)が文化進化に与える影響を示した。また、その研究によって、集団を構成する個体の生活史が文化に及ぼす影響が示されたが、化石証拠をもとに古人類の生活史を推定する研究もおこなったことで、寿命の延長が起きたことによって新人における文化発展がもたらされたという、今までにない視点を得ることに成功した。そして、これらの研究成果を査読付き国際誌や国際学会で発表したことによって、国際的な評価を得ることもできた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の数理モデルを用いた研究によって、もし人類においてある段階で構成能力が生じたなら、積み上げ式の学習が必要な技術は変化しないが、並行学習可能な技術の組み合わせでできる技術はより高度になることが示された。一方で、単に学習・認知能力が上昇した場合や、社会交流範囲が広がった場合、寿命が延びた場合などは、どのようなタイプの文化も同様に高度になると予測される。つまり、複数の小技術で構成される大技術を見るとき、積み上げ学習が必要なのか、それとも並行学習可能なのかを検討することが重要である。以上の結果を利用し、本年度はまず考古証拠の文献調査を行い、並行学習可能な技術の組み合わせでできる技術と積み上げ学習が必要な技術がどのように文化進化してきたのかを調べ、人類進化のどの段階で言語が出現したと考えられるのかを探る。また、現生人類と類人猿や古人類との間の解剖学的相違点についても調査を行い、考古証拠と矛盾がないかを検証する。さらには、構成能力がどのような社会生態要因によって進化するのかを数理モデルによって調べ、言語進化の究極要因を検討する。
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