自閉的傾向は,コミュニケーション障害と関連づけられつつ, 人類史の発見との関連も指摘される.しかし,自閉的傾向が人類のコミュニケーション・言語の様式に与えた影響は明らかではない.また,近年では自閉スペクトラム症の診断が増加し,特性に応じたコミュニケーションの形態を探る必要も生じている.本研究では,これらをメッセージ付き協調ゲームを課題とした実験的・構成的アプローチによって検討した. 2019年度は,前年度に検討した実験データに対する検討を進めた.その結果,自閉スペクトラムの様々な特性が,コミュニケーション形成の異なる局面に影響を及ぼすことが明らかになった.たとえば,パターン化の強さは集団における初期の記号システムの形成を促進し,注意の切り替えの困難さは形成されたコミュニケーションシステムを維持する役割を担った. これらの知見は,自閉的傾向がコミュニケーション障害と関連づけられるという既存の見方と整合しない.不整合の一つの原因は,コミュニケーションシステムの新規性に求められる.本研究の参加者は,既存のコミュニケーションを学習するのではなく,自らが新たにコミュニケーションのシステムを形成した.このような主体的な場面において,自閉的傾向は有効に働くのかもしれない.この解釈は自閉的傾向と人類史における発見との関係と整合する. もう一つの考えられる原因はメディアの特性である.本研究では音声やジェスチャーを排除した状況で,視覚的図形を組み合わせることによるコミュニケーションを求めた.このような状況は,自閉スペクトラム症が困難を覚えるコミュニケーション場面とは異なる.研究代表者らのシミュレーションにおいても,自閉的傾向の強さと音声コミュニケーションにおける分節化の困難さが関連づけられている.これらから特性に応じた環境の設定により,有効なコミュニケーションの支援が可能になることが示唆される.
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