研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
18H05069
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上川内 あづさ 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00525264)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経科学 |
研究実績の概要 |
人間が発育段階で獲得する言語発達のメカニズムを理解するためのモデルとして用いられる鳴禽類においては、幼少期の音経験がその後の歌識別に必要である。本研究の目的は、種に固有なパターンを持つ言語や歌の識別能力の発達を担う分子・神経回路機構の研究に、ショウジョウバエを新たなモデルとして導入することで、そのメカニズムを解明することである。 今年度は、ショウジョウバエの歌識別学習の成立には臨界期はあるのか? 一度獲得した識別能力は一生保持されるのか?という2点について、まずは解析を進めた。これまでに、羽化直後のショウジョウバエでは、歌識別学習が成立することがわかっている。そこで、この実験方法を改良してより日齢の進んだ個体を用いた行動解析を行った。その結果、成熟個体や老齢個体でも、同様の学習が成立することが分かった。これにより、ショウジョウバエが示す歌識別学習では、少なくとも老齢期までは臨界期は存在しないことが示唆された。また、同様の行動実験により、ショウジョウバエにおいては、一度獲得した識別能力も、徐々に減弱することが分かった。 以上2点の知見により、ショウジョウバエが示す歌識別学習の特性が明らかになった。そこで次に、歌識別学習を担う責任ニューロンや、責任遺伝子の同定に着手した。まず、責任ニューロンを絞り込むためのスクリーニングに用いるショウジョウバエ系統の作成を進めた。また、これまでのスクリーニングにより、責任遺伝子の候補の絞り込みに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で予定した内容通り、ショウジョウバエが示す歌識別学習において、脊椎動物と同様に、(1)音経験が有効な「臨界期」はあるのか、(2)獲得した歌識別能力は生涯保持されるか、という項目の解明を進め、予備結果を得ることができた。これにより、ショウジョウバエが示す歌識別学習の特性の理解が進んだ。さらに、言語や歌の識別能力の発達研究の新たなモデルとして、ショウジョウバエを用いるための基盤が整備された。また、歌識別学習に関わる責任因子の同定も開始し、これまでに実験系の整備や候補遺伝子の絞り込みを完了した。 以上、本研究課題は、予定通り順調に進捗していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得た予備的結果を元にして、これまでに得られた候補遺伝子が実際に歌識別学習に関与するのかを、遺伝子発現を抑制した個体を作成して解析する。特定の遺伝子の発現を抑制するため、GAL4/UAS法を用いてRNAiを特定のニューロンのみで誘導する、という方法を用いる。このように作成した個体に対して、正常な歌識別学習が成立するかを調べる。また、成熟個体や老齢個体を用いた解析も行い、歌識別能力の維持機構における機能も解析する。 また、歌識別学習を担う責任ニューロンのスクリーニングを開始する。これまでに選出したショウジョウバエ系統を用いて、責任ニューロンの候補の機能を阻害した個体を作成して解析する。これにより、責任ニューロンを同定する。同定後は、その上流や下流に位置するニューロンを分子解剖学的な手法を用いて同定し、どのような神経回路が歌識別能力の獲得や維持に機能するのかを理解する。
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