研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
18H05072
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
狩野 文浩 京都大学, 高等研究院, 特定准教授 (70739565)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 類人猿 / アイ・トラッキング / 直示コミュニケーション / 鳥類 / モーション・トラッキング / 心の理論 |
研究実績の概要 |
アイ・トラッキングやモーション・トラッキング、サーモ・イメージングなど最先端の非侵襲センサーを活用することによって、ヒト以外の動物の他者理解など認知能力を調べた。本年度は、主に、類人猿の直示コミュニケーションの理解に関する調査を行い、類人猿の感情を調べるツールとして、サーモ・イメージングの有用性に関しての総説論文を執筆し、さらに、鳥における視線追跡の手法開発を行った。 直示コミュニケーションとは、ヒト特有のシグナルで、目を合わせたり名前を呼んだりするような「これから何か教えるよ」という合図のことである。先行研究においては、ヒト幼児や家畜のイヌが、シグナルを示した人物が指し示す対象に対して注意を高めることが示されている。本研究では、この実験をチンパンジーにおいて追試した。結果、チンパンジーは直示シグナルに対して、先行研究のヒトや家畜のイヌと同様の反応を示さなかった。しかし、ヒトに幼少時から親しんで育ったチンパンジーにおいては、限定的ではあるが先行研究と類似の結果が得られた。したがって、ヒト特有のシグナルである直示コミュニケーションに対する理解は、ヒトと家畜動物に、ある程度限定されたものであることが示唆された。 また、本年度は、自由飛行する鳥の視線を小型搭載型のモーション・トラッカーによって追跡する手法を開発した。レース鳩を対象にナビゲーション(帰巣飛行)中に、何に対して注意を払っているか調査した。先行研究における知見と一致して、ハトはランドマークや同期して飛行する群れのハトを特によく見ることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、類人猿における直示コミュニケーションの理解と、鳥におけるモーション・トラッキングを用いた視線追跡の開発それぞれについて原著論文を発表し、また、サーモ・イメージングの類人猿における情動研究の可能性について総説を執筆した。これらについて国際学会で招待発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本領域の2つの中心テーマの1つである「意図共有」について、類人猿を対象に研究を進めたい。類人猿は、ヒトと同様の心理的メカニズムで、他者の心的状態を理解できるだろうか? とくに、類人猿が、自己の経験を他者の心的状態の理解に用いることができるかをテストするための「トリック目隠し」課題を行う。この課題では、動画の中に主役とその敵役が登場する。主役が取ろうとしている物を敵役が奪おうとする。主役が目隠しの後ろに隠れたときに敵役が物を持ち去ってしまう。その後、主役がもどってきて何か探しているそぶりを見せる。目隠しには性質の異なる2種類を用意することで、類人猿がその性質に応じて行動の予測を調節できるか調べる。目隠しには本物と、実は透けて見えるものがあり、動画の中では(遠目からは)同じに見える。類人猿の個体ごとに、動画を見せる前に異なる種類の目隠しを体験させておく。二条件で役者の行動はまったく同じであるから、類人猿が自己経験を他者の心的状態の理解に用いることができるのであれば、本物の目隠しを経験した後に主役の誤信念に基づく予測を行い、トリック目隠しを経験した後にそうでない予測を行うと期待される。 また平行して、鳥類の視線追跡について、知能が高く社会性の強いカラスでも同様の視線追跡を行う。前年度は、比較的扱いやすいハトで方法を確立した。また、カラスの飼育を開始した。今年度は視線追跡の方法を確立する。
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