2019年度は、統語の普遍性や進化則を明らかにするために野外において比較研究をおこなった。具体的には、以下の課題について取り組んだ。 1)実証研究|音声の組み合わせに関する比較研究 まず、長野県北佐久郡のコガラを中心とした鳥類の混群に対して、捕食者のモズの剥製、ハイタカの剥製、コントロールとしてキジバトの剥製を提示し、その際にとった行動と音声を記録した。行動解析および音声解析から、鳥たちはモズに対しては追い払い行動を示し、その際に警戒声と集合声を組み合わせて発することが明らかになった。一方で、ハイタカの提示に対しては逃避し、その際にも特異な音声を発することが明らかになった。音声再生実験から、コガラの受信者は、警戒声に対しては逃避し、集合声に対しては音源に接近することが明らかになった。また、それらの組み合わせ音声に対しては、新規の行動(羽を打つディスプレイや頻繁な枝移り)をとることもわかった。コガラの音声の組み合わせが、合成的表現として認識されているのか、全体として単一の意味情報として認識されているのかは更なる実験が必要である。 2)理論研究|統語研究のフレームワークの構築 近年、野生動物(鳥類および霊長類)において音声の組み合わせに関する研究が加速的に増えている。それらの研究のフレームワークを構築するために、霊長類研究者(Zuberbuhler博士)や鳥類研究者(Wheatcroft博士、Griesser博士)と共に複数の総説論文を執筆した。なかでもPhilosophical Transactions of the Royal Society Bに執筆した総説では、どのようにして階層的な情報伝達が進化しうるのか、動物の個々の認知能力やコミュニケーション能力の研究成果についてレビューし、考えうるシナリオを提唱した。
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