公募研究
本研究はヒト発達初期における「階層性」と「意図共有」の脳内基盤をそれぞれについて研究1,2で明らかにすることを目的としている。ヒトは音韻知覚や記憶など他種とある程度共通した能力を持つ一方で,階層性といった複雑な構造の理解はほぼヒトのみが持つ,言語運用を可能にする重要な能力と考えられる。例えばThe boy [the girl loved] kicked the ball.のような文章は階層性の理解なしには,文全体が理解できない。研究1はこのような階層性を音声の違いとして表現した刺激,Non-Adjacent Dependency (NAD) Grammar(非隣接依存性文法)の階層構造を持つ人工文法刺激を用いた。この規則学習時の脳反応,そして規則を学習した後に逸脱刺激を呈示した場合の乳児の脳反応を計測することで,発達初期の規則学習と処理に関わる脳内機構を明らかにすることを目的とした。今年度はNAD刺激を作成し,成人について予備実験を行い,6-7ヶ月児を対象とする実験を行うことができた。成人は行動的にNAD文法の学習刺激呈示後に有意な成績の上昇が得られたので,学習が成立したことが示され,乳幼児に対する実験刺激として有用性が示された。10名の6-7ヶ月児に対して実験を適用することができた。我々は先行研究にてライブの共同注意における視線共有時の前頭前野活動や随伴性に関与するTPJ(Temporo-Parietal Junction)の脳活動を乳幼児について報告した。「意図共有」の研究2では,自然な実験者との相互作用中に生じた視線共有や随伴性についての脳活動をfNIRSにて(1)新しい実験手法(イベントデザイン)で捉え,(2)自閉スペクトラム症(ASD)リスク児にでも定型発達児と同じようなTPJ活動が見られるかを検討することを目的としていた。実験を開始しデータを収集中である。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度は研究1の人工文法刺激の作成そして成人での予備実験を重ねることで最終的な実験デザインを決定する予定で,乳幼児の実験の開始までは予定していなかった。ドイツやスイスの共同研究者と刺激作成を進めることで効率的に刺激作成を進めることができた。申請当初はトーン刺激ではなく音韻を用いた鏡像型の人工文法を使用する予定であったが,今後の新生児研究や動物研究も視野に入れ,音韻ではなくより知覚しやすいトーン刺激を用いることとした。それらの刺激を用いて6-7ヶ月を対象としたfNIRS実験に着手し約15名の実験を行うことができた。研究2は自然な実験者との相互作用中に生じた視線共有と随伴性について脳活動を捉えるfNIRS実験であったが,これまで定型発達児に適用していた同様のブロックデザインの実験をASDリスクのある乳児に適用した。ASDリスク児はASDを兄,姉に持つ乳児であるがリクルートが難しいので今年は8名(6-7ヶ月児)の実施であった。一方で,定型発達児についてはこれまで充分なブロックデザインの実験を行ってきたので,今回はイベントデザインの可能性を検討するためにも自然な相互作用時のイベントデザインを用いたfNIRS計測を6-7ヶ月齢の定型発達児に実施した。まだデータ数が充分ではないが,現在までの結果をまとめるとイベントデザインでもブロックデザインで得られた随伴性に対するTPJの脳活動が得られ,かつ時間的にも行動に則した正確な反応が得られている。
今後は, 2018年度に立ち上げた上述した2つのfNIRS実験を継続して遂行する。対象児として,研究1,2では6-7ヶ月齢の定型発達児そして研究2ではそれに加えて同年齢のASDリスク児乳児についてデータ収集を進める予定である。各実験で総計50名ほどの乳児を対象としfNIRS実験を行う。その他の具体的な内容は下記の通りである。(データ解析)(1)研究1,2において実験条件別の脳活動の強さを評価する解析を行う。まずは従来の加算平均法を使うが,検定はt-test, 分散分析以外にもパーミュテーション検定も適用する。研究1の結果は2つの脳活動ピークが見られているので時間窓の検討も必要である。 (2)データの質が良い(アーチファクトが少なく安定したデータが得られた)場合には脳機能結合の解析を研究1,2ともに行う。前処理や補完の方法も適用しつつ最適な方法を探索する。(3)研究2ではブロックデザインの実験データについて定型発達児とASDリスク児についての比較を行う。(報告)国内学会(赤ちゃん学会,発達心理学会)や国際学会(Human Brain Mapping 2019, NIRS 2019, NIRstralia 2019)にて研究1,2の成果について報告し,意見収集を行い論文執筆に役立てる。(共同研究)研究1はドイツ,スイスの共同研究者に報告しつつ,データ解析や考察を行う。このためにも2019年6月にドイツUniversity of Osnabrückの共同研究者を訪問し,データの報告と討論を行う予定である。
皆川泰代「赤ちゃんのココロとコトバのひみつ」Babyco子育て応援プロジェクト主催,ワークショップ「親育子育ラボ(おやいくこいくらぼ)」GINZA SIX(2018年12月19日)、皆川泰代「赤ちゃんラボに聞く赤ちゃんのトリセツ」プレジデントベビー
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