研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
18H05083
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 淳一 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (60202389)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 言語発達支援 / 自閉スペクトラム症 / 共同注意 / 模倣 / コミュニケーション / 共創 / ペアレントトレーニング / 熟達化 |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症のある幼児(以下、自閉症児)が言語を獲得してゆく過程を、発達支援の効果を定量評価しながら総合的に明らかにする。同時に、自閉症児と「共に創る」言語システムを具体的に提案することを目的とする。(1)まず、「大人(セラピスト、保護者)」と「子ども」に対して、大学ラボと家庭での安定した言語的・非言語的相互作用をつくりあげ、実験的発達支援研究のプラットホームを確立した。自閉症児の事前・事後でのプロフィールの変化を、一般発達検査、行動検査、知覚・運動検査などを用いて評価した。発達支援として、「対人相互作用」、「楽しさの共有」、「随伴模倣と模倣」、「発信と受信の繰り返し」、「言語表出と理解の出現機会の設定」を組み込んだ支援を実施した。(2)直示的コミュニケーションや相互作用を繰り返すことが、共感から共創への基盤となるかについて、共同注意(応答型・始発型)に焦点を当て、その成立条件を、臨床実験的手法を用いて分析した。(3)言語獲得における模倣の効果を分析するため、モデル刺激の提示方法の効果を分析した。また、大人が子どもの動作と音声を模倣する「随伴模倣」が、子どもの動作と音声の発達促進にどのような効果をもたらすかを検討した。個人の中での身振りの階層とことばの階層がどのように統合されてくるかについて、俯瞰カメラを用いた行動の映像解析、視線の分析などによって、詳細に検討を行った。(4)研究の成果を、言語発達支援の実践現場で活用してもらうため、言語聴覚士、臨床心理士へのワークショップを定常的に行い、社会に研究成果を発信した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)生態学的空間での共同注意:実験者と参加児が1つの机に向かいあい、正面の共有空間とまわりの360度の共有空間を実験的にしつらえた。hand pointing条件では,実験者は手を参加児の前に出し,顔と視線は参加児に向けたまま,手と手首を使って絵カード刺激を指さした。その結果、子どもにとっての前方についての指さしに対応する刺激への反応はほとんどの子どもで成立したが、後方の絵カードへの正反応は低い値であった。このことから、生態学的空間が直示的コミュニケーションを制約している可能性が示唆された。また、発達年齢と共同注意との間で正の相関関係が見られた。(2)模倣による対人相互作用促進:模倣は、「動作模倣」から「対人相互作用」と「音声模倣」を経て、「言語理解」と「言語表出」につながる重要な役割をになっている。動作模倣の連続は、自閉症児の視線定位の持続、視覚運動協調の安定、相互引き込み、など相互作用の基盤を形づくると考えられる。そこで、モデル刺激を子どもの反応直後に即座に提示する0秒遅延条件と2秒後に提示する2秒遅延条件で、模倣反応がどのように変化するかを分析した。単一事例研究計画法を用いた分析の結果、時間当たりの模倣数の増加が観察され、それが対人相互作用の安定につながることがわかった。このような一定のリズムを持った刺激と反応の相互関係が「対人相互作用」や「音声言語」の促進をもたらすと考察した。(3)随伴模倣による音声言語の獲得研究:これまでの研究結果を受けて、「動作模倣」「音声模倣」「操作模倣」「模倣」「随伴模倣」「拡張随伴模倣」を組み込んだ発達支援技法をマニュアル化し、発達年齢の低い重度の無発語自閉症児に適用した。支援の結果、全ての参加児が模倣(動作・操作・音声)を獲得した。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)2018年度には、共同注意から模倣に至る発達支援の効果を明らかにすることができた。今後は、その発達支援研究をさらに発展させて、言語理解、言語表出から対人的相互作用を促進するための条件を明らかにしていく予定である。特に、一定のリズムを持った音声(動作)刺激と音声(動作)反応の同期が「対人相互作用」や「音声言語」の促進をもたらすかを明らかにする。このデータをもとに、言語と動作の階層関係を分析する。(2)ペアレントトレーニングにより、一定の成果を得たので、遠隔地の家庭に対して、インターネットのテレビ会議システムを用いた遠隔地発達支援プログラムを実施し、効果評価を行う。言語発達支援におけるtelehealthの効果検証である。(3)心理言語学領域との共同研究として、自閉症児の言語獲得に及ぼす身ぶりや直示コミュニケーションの効果を分析する。(4)自閉症児とロボットのコミュニケーションの基礎データを蓄積し、発達支援ロボティックスという新たな融合領域を工学領域との共同研究によって切り開く。(5)研究の成果を、言語発達支援に活用してもらうため、言語聴覚士、臨床心理士、保育士、幼稚園教諭、療育士などへのワークショップを定常的に行い、社会に研究成果を発信する。その効果を、質的、量的に分析する。
|