研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
18H05086
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研究機関 | 名古屋外国語大学 |
研究代表者 |
川原 功司 名古屋外国語大学, 外国語学部, 准教授 (70582542)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 間投詞 / 会話 / 修復 / 自閉症スペクトラム |
研究実績の概要 |
本研究課題では「え?」や「ね」といった間投詞が意図共有という観点からどのような役割を果たし,それが言語進化を巡る理論にどのような貢献ができるのか,また,なぜこの種の間投詞が名詞や動詞などの主要な品詞とは違い階層性に基づく統辞操作の対象にならないのかということを研究することが主眼である。2018年度は,B03公募班代表の吉村優子先生と自閉症スペクトラムの幼児における間投詞の使用について共同研究を行ったのが主な研究成果である。 人間の会話を分析すると,そこには普遍的なパターンがあるということがわかる。自閉症スペクトラムの幼児は社会性がないなどと言われるが,それを言語学的に分析することができないかという点から考えれば,言語能力を適切に運用することができない,具体的には会話における修復がないということが言える。「ね」という音に対する脳の反応に違いが見られたが,それが受容という観点からは差がなく,発話というアウトプットの点で差があるということは,前者は言語を越えた広い意味での学習で習得が可能だが,後者にはそれができないというのが現在の結論である。2019年度は,この研究成果を踏まえた上で,進化という観点から自閉症スペクトラムを考察し,なぜこの症状が現在存在し,そしてなぜ少数派なのかということを大局的な観点から分析していくことを課題としていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題は,他者修復と相づちで使用される間投詞は会話という選択圧の中において文化進化の産物として形成されると想定し、知覚した意味を直接的・感覚的に反映した語彙の原型であるという観点から共創言語進化学の問題を考察することである。また、間投詞は主要な品詞とは異なり、文法的統合性が弱い(主語や述語になれない、他の語を修飾しない、他の語に修飾されない、随意的、埋め込み文の中に入らないなど)ということが知られている。本研究の二つ目の目的は、間投詞には類像的(iconic) で音象徴的な意味が感じられ、かつ非真理条件的意味を表現しており、それ故に階層構造を作る回帰的併合の対象にならないということを検証することである。本年度は,自閉症スペクトラムの幼児のデータも合わせて定型発達児と比較検討することで,予想外のところから研究を進めることができ,実際,その成果を学会 (Japanese/Korean Linguistics 26) で発表し,論文の形でまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の課題とその成果も含めて,研究成果公開促進費(学術図書)を利用した書籍においてその成果をまとめていくのが2019年度前半の課題である。また,9月にはポルトガルのリスボンで開かれるProtolang 6で現在の研究成果を発表してくる予定である。2018年度は会話における間投詞の使用,つまり意図共有という部分の分析が主な対象であったが,2019年度は間投詞が統辞操作の対象となる場合という言語の階層性に焦点を当てた研究を進めていくことにより,本研究課題が拠り所とする共創的コミュニケーションのための言語進化という目標に貢献していくことを目指す。
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