公募研究
齧歯類の同異概念形成、メタ認知、および意図共有を行動実験により検出し、さらにそれらを担う神経回路を神経科学的実験により明らかにすることをめざし研究を進めた。まずラットの同異概念の形成を検討するため、齧歯類にとって弁別がより容易な音刺激を用いた同異弁別課題を開発し、訓練を進めた。またラット用のメタ認知課題として、左右の光刺激の強度を調節できる光方向弁別課題を開発した。右点灯→右へ反応、左点灯→左へ反応、点灯なし→中央へ反応することを学習させたところ、光の強度が下がるほど中央への反応(選択の回避)が増大し、回避せず選択した際は殆ど正解を示した。しかし回避を許さず左右どちらかへの反応を強制すると、光の強度が下がるほど正解が減少した。これらの結果から、ラットは自身の認知状態(見えているか見えていないか)を認知しながら適宜選択を回避できることがわかった。さらに、ラットの意図共有を検討する課題を開発した。他個体がゴールの位置を学習している行動を観察することで、同じ学習が促進されるかどうか、バーンズ迷路を用いて検討した。その結果、他個体の学習行動を観察したラットは、より速く同じゴールに到達できることがわかったこれら同異概念形成、メタ認知、意図共有それぞれの機能を担う神経回路について、最新の多細胞同時記録法(マルチニューロン活動記録法)、オプトジェネティクス、および脳内電気刺激法により解析するための準備も進めた。
1: 当初の計画以上に進展している
言語に到る下位機能である同異概念、メタ認知、および意図共有の全てについて、ラット用の行動課題を確立することに成功し、メタ認知と意図共有についてはそれぞれ国際誌に論文を掲載することができた。また、それら3つの下位機能を担う神経回路について検討する準備も予定より進んでおり、最新のマルチニューロン活動記録法、オプトジェネティクス、および脳内電気刺激法を確立することができた。さらに、そのような神経回路の仮説として、海馬―前頭前野-感覚野の領域内および領域間におけるセル・アセンブリの重複と相互作用の理論を確立し、国際誌に2本の論文をすでに掲載することができた。
同異概念形成、メタ認知、意図共有それぞれについて、さらに詳細な行動解析を進める。同時に、それらの機能を担う神経回路について、最新のマルチニューロン活動記録法、オプトジェネティクス、および脳内電気刺激法により明らかにしていく。特にオプトジェネティクスに関しては、課題遂行中に発火頻度と同期発火の変化が生じた神経細胞集団にチャネルロドプシン2(ChR2)を発現する遺伝子を確実に導入する方法を確立する。導入にはレンチウイルスベクターやアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いる。この方法を活用することで、セル・アセンブリの操作により課題の学習や遂行が増強されるかどうか因果的に検証していく。そして最終的に、言語の下位機能を担う海馬、前頭前野、感覚野等の領域内および領域間のセル・アセンブリの実態を検出する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 8件) 備考 (1件)
Neuroscience Research
巻: 153 ページ: 22~26
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https://www1.doshisha.ac.jp/~ysakurai/