公募研究
本研究では、唾液腺をモデルとして、新規組織幹・前駆細胞を同定するために、Wntシグナルにより発現する新規標的分子として、すでにAQP3を同定した。(1)マウス唾液腺オルガノイドを用いて、AQP3陽性細胞において共発現することを見出した細胞表面抗原Sca-1を指標に、FACSにてAQP3/Sca-1陽性細胞を単離した。AQP3/Sca-1陰性細胞は唾液腺オルガノイド形成能を有さなかったが、AQP3/Sca-1陽性細胞は約40%の形成効率でオルガノイドを形成することが明らかになった。(2)GFP標識したR-spondin誘導性に形成されたAQP3陽性唾液腺上皮オルガノイドを、導管結紮による急性唾液腺傷害モデルに移植したところ、移植後4か月にわたってAQP3陽性オルガノイド由来細胞によって腺房および導管組織が形成・維持されていた。(1),(2)の結果からAQP3陽性細胞が、新規のWnt依存的組織幹・前駆細胞である可能性が強く示唆された。(3)AQP3陽性細胞の唾液腺発生過程、または組織傷害からの修復過程への関与を明らかにするため、AQP3陽性細胞を系統追跡する目的で、AQP3遺伝子座にCreERT2をノックインしたAQP3-CreERT2マウスを作製した。(4)胎生後期(E17.5日)肺から単離した肺胞上皮細胞はマトリゲル三次元培養下でほとんど増殖しなかったが、胎児肺からPdgfra陽性線維芽細胞を単離し、上皮細胞と共培養すると上皮細胞は球状の細胞塊(シスト)を形成した。肺胞上皮細胞は線維芽細胞と共に培養した時にのみ、II型肺胞上皮細胞マーカーの発現が上昇し、気道上皮細胞マーカーの発現が低下した。すなわち、線維芽細胞の存在が気管支遠位に存在するII型肺胞上皮細胞の分化を促進することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
研究計画「新規Wnt依存的可動性組織幹・前駆細胞の同定」については、研究実績概要に記載したとおり、AQP3陽性細胞が新規のWnt依存的組織幹・前駆細胞である可能性が強く示唆される結果が得られた。当初の計画では、CRISPR/Casシステムを用いてmCherry遺伝子をAQP3の遺伝子座に挿入し、唾液腺オルガノイドを用いてAQP3レポーター唾液腺細胞を作製する予定であったが、作製した細胞の継代・維持が困難であった。そこで、FACSに使用可能なAQP3モノクローナル抗体を作製し、さらにAQP3陽性細胞の系統追跡が可能なAQP3-CreERT2マウスを作製することが出来た。また、「幹・前駆細胞の配置依存的分化制御における細胞間相互作用の解析」についても、モデル臓器として胎生期肺を用いて、線維芽細胞が肺胞上皮の分化と肺胞特有の細胞形態変化を制御する機構を明らかにできたので、「おおむね順調に進展している」と判断した。
上述したように、AQP3レポーター細胞の作製が困難であった。そこで、AQP3の細胞外領域を認識するラットモノクローナル抗体の作製し、FACSに使用可能な抗体の作製に成功した。細胞外領域が小さいためこれまでに作製できていなかった抗AQP3抗体を取得できたことは大きな意義があった。今後は、唾液腺におけるAQP3陽性細胞の機能を正確に評価するために、FACSにてAQP3陽性細胞を単離し、in vitroでの三次元組織形成能とin vivoでの傷害組織修復能を解析する予定である。また、AQP3陽性細胞の唾液腺発生過程、または組織傷害からの修復過程への関与を明らかにするため、AQP3陽性細胞を系統追跡する目的でAQP3遺伝子座にCreERT2をノックインしたAQP3-CreERT2マウスを既に作製した。今後は、Rosa-YFPマウスと交配し、唾液腺発生過程、または組織傷害からの修復過程における系統追跡解析を行う予定である。胎生期肺をモデルとして、種々の間質細胞の単離と、上皮-間質細胞の共培養系をすでに確立している。今後は、唾液腺の上皮と間質細胞を用いて、腺房分化に重要な間質細胞種とその制御機構を明らかにする予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 6件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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