本公募研究において、報告者らはあらたに舌上皮に存在する味蕾幹細胞の存在を証明した。味蕾とは舌上皮茸状乳頭に存在する味覚感知器官であり、甘味、塩 味、苦味、酸味、旨味の基本5味覚に加えて、カルシウム、鉄味等のマイナーな味覚を含めすべての味覚を感知する、少なくとも4種類の味覚感知細胞を内包している器官である。これらの細胞は聴覚、嗅覚等の感知細胞とは異なり、食物から来る物理的、化学的障害に曝されていることから、成体幹細胞によって維持されていると考えられていた。従来説によると全ての種類の味細胞に共通の幹細胞は味蕾底部に存在するⅣ型味覚感知細胞とされてきた。Ⅳ型味覚感知細胞は未分化な細胞であり、特定の味受容体を発現していない。しかし報告者らの研究により、Ⅳ型味覚感知細胞は一過性増殖細胞であり、真の味蕾幹細胞は、傍味蕾乳頭間窩底部に存在することが明らかとなった。多色細胞系譜追跡法と単一細胞RNAseq法を用いて、食道上皮幹細胞、味蕾幹細胞、舌上皮幹細胞の新規幹細胞マーカー遺伝子のリストアップおよび、それに基づいた多色細胞系譜追跡法にて、これらが報告者らの過去の研究にて同定した幹細胞マーカーよりも特異的であることを示すことができた(知財申請のため遺伝子名は非開示)。また、同領域由来のオルガノイド培養法を確立、多色細胞系譜追跡法、3Dタイムラプス動画解析(4D解析)による成体幹細胞の動態解析を行った。また、同領域の4NQO発がんモデルによる腫瘍由来、がんオルガノイド(舌がんオルガノイド、および食道がんオルガノイド)に適応し、正常オルガノイドにおける成体幹細胞の挙動とがんオルガノイドにおけるがん幹細胞の挙動の比較およびそれぞれの単一細胞RNAseq法解析を行い、悪性腫瘍における細胞社会の乱れの意義について解析した。結果はまだ途上であるが、これらの成果について論文投稿準備中である。
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