線虫C. elegans の2つの行動様式、「ローカルサーチ」と「グローバルサーチ」の違いを特徴付ける行動要素として、後退や急激な方向転換などのターン運動の頻度が挙げられる。すなわち、ローカルサーチモードではターン運動の頻度が上昇し、方向転換を繰り返しながら局所的な探索運動を繰り返すのに対し、グローバルサーチモードでは、方向転換の頻度を著しく減少させることで、より広範な範囲を探索する。本年度は、まず、行動の相転移がおきる温度環境下での、これらの後退などの方向転換運動を制御する神経細胞の同定を試みた。具体的には、すべての神経細胞が同定されている線虫の利点を生かし、個々の神経細胞が脱落した系統を多数作成した。これらの神経細胞脱落株での温度環境下での行動をMulti Worm Trackerによって計測後、得られたデータから後退や方向転換に寄与する神経細胞の同定を試みた。これによって、線虫の主要な温度受容ニューロンであるAFDや、その下流に位置するいくつかの介在ニューロンが後退などの方向転換の制御に関わっていることが明らかとなってきた。 さらに、ローカルサーチからグローバルサーチへと行動が相転移を起こす際に、どのような神経活動が関与するのかを明らかにするために、行動中の線虫を高倍率で捉え、動きに合わせて追従しながら神経活動を計測する高速トラッキングシステムの拡張を行った。現在までに、複数の神経細胞から神経活動を得るための画像解析プログラムを更新した。
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