公募研究
学習時に活性化されて記憶痕跡となる神経細胞は海馬や前頭皮質、頭頂皮質、扁桃体など複数の大脳領野に並列的に存在するが、これら領野間での相互作用が記憶の獲得や維持、想起に対してどのように関与するのかについては明らかになっていない。本研究では記憶痕跡の多領域間相互作用様式とその遷移を解析することにより、それぞれの脳領域にある記憶痕跡の機能を明らかにすることを目的とする。このため平成30年度では活動依存的遺伝子発現系と薬剤依存的遺伝子制御系を組み合わせることにより、マウスにおいて記憶関連細胞を多時点で標識するシステムの構築を行った。前初期遺伝子Arcは記憶と関連する神経活動と良く相関した発現を示す。このArc遺伝子のプロモーターを利用し、その下流に薬剤依存的リコンビナーゼを配置したトラスジェニックマウスを作成し、このマウスとリコンビナーゼ依存的レポーターマウスとを掛け合わせた2重トランスジェニックマウスを得た。このマウスでは薬剤投与と神経活動が同時期に起こった場合のみにレポータータンパク質が発現した。次に、このマウスを用いて文脈依存的な恐怖条件付け等の記憶課題を行わせ、記憶想起などのイベントにレポーター標識される神経細胞を海馬で定量的な解析を行った。海馬の歯状回においては記憶想起によるレポーター発現がみられたが、レポーター陽性細胞の数は記憶獲得からの時間によってほとんど変化しないという結果が得られた。また、解析感度や効率を上げるため、新しい薬剤依存的なレポーター発現システム構築の検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
実験計画について順調に実験を進めており、大脳組織学的解析および新規レポーターシステムの構築も進んでいる。
次年度では、これまで得られたデータの定量解析と統計的評価を行い、結果の解釈と生物学的な意義を考察する。また、海馬以外の多領野もしも計画どおりに進まない場合は、現在構築中のレポーターシステムに切り替えて実験を進める。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Cell Reports
巻: 25 ページ: 640~650
10.1016/j.celrep.2018.09.064
Frontiers in Systems Neuroscience
巻: 12 ページ: 53
10.3389/fnsys.2018.00053