• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2018 年度 実績報告書

発達障害の病態理解に向けた小脳-前頭前野-領野連関の解明

公募研究

研究領域脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理
研究課題/領域番号 18H05139
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

石田 綾  慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40424171)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2020-03-31
キーワード領野連関 / 神経科学 / 発達障害 / 小脳 / 前頭前野
研究実績の概要

自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害は、増加傾向にあることから病態の解明が重要な課題となっている。しかし、その症状をもたらすメカニズムについては未解明な点が多い。近年、ASD 者では脳領域間の機能的な結合性が健常者と異なることが報告された。また、小脳の病理的異常については以前から報告があり、ASD 者では小脳皮質と前頭前野の結合性に変化があることも指摘されている。これらの知見は、小脳と前頭前野が機能的に結合しASD に関連する高次機能を制御することを示唆するが、2つの領域間の領野連関について生理的意義を実証した研究は少ない。そこで本研究では、小脳と前頭前野間の領野連関に焦点をあて、その解剖学的経路と生理的意義を明らかにし、回路形成を担う分子を同定することを目的とした。長期的には発達障害のモデルマウスへ研究を発展させることを目指し、2018年度は主に技術基盤の構築を行った。小脳から前頭前野へ至る投射経路をマウスの脳で可視化するため、アデノ随伴ウイルスベクターを用いたトレーシング実験を立ち上げ、変異型狂犬病ウイルスの作製条件を検討した。また、前頭前野が重要な役割を担うとされる作業記憶を、マウスで効率よく定量化するために、タッチパネルを用いた新しい作業記憶課題を開発した。従来から用いられてきた作業記憶課題は時間がかかり煩雑であることが問題だったが、新しい課題はほぼ全自動で施行することができ、これらの問題が解決したと考えている。さらに、小脳-前頭前野間の神経回路が適切に形成されるために必要な分子を明らかにするため、小脳の出力核に発現するシナプスオーガナイザーの局在解析をすすめている。以上で開発した技術を野生型のマウスだけでなく、発達障害のモデルマウスの解析にも応用することで、今後、病態の解明につなげていく計画である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

小脳からの入力が前頭前野の機能にどのような影響をもたらすのかを明らかにするため、2018年度は主に以下の課題を中心に技術基盤の構築を主に行った。
1)小脳から前頭前野への投射経路の同定:小脳から前頭前野に至る神経経路を明らかにするため、アデノ随伴ウイルスベクターと変異型組み換え狂犬病ウイルスを利用する計画である。本年度は、これらのウイルスを作成するためのプロトコールを最適化した。2018年度中旬に申請を経て変異型組み換え狂犬病ウイルスを使用する許可が得られ、ウイルス作成に着手した。既報のプロトコールに基づきウイルスを作成し、条件検討を経て目標とするタイターのウイルスが得らた。試験的にマウスの脳に注入したところ、感染細胞(一次感染細胞と2次感染細胞)が確認できた。
2) ホームケージシステムを用いた新しい作業記憶課題の開発:前頭前野が制御する代表的な機能が作業記憶であり、作業記憶の障害は様々な疾患との関連が示唆されている。従来の齧歯類を対象とした作業記憶課題は、時間がかかり、結果のばらつきが大きい等の問題があった。そこでこれらの問題を解決するため、タッチパネルを用いた新しい作業記憶課題を開発した。使用した装置には3つの点灯するパネルが装備されており、パネルを決められたパターンでタッチするとマウスは報酬として水を飲むことがきる。パネルをタッチする間隔(Delay)を制御することで、作業記憶への負荷を調節できる。様々なパラメーターを検討した結果、安定した実験データを得られるようになった。
3)小脳-前頭前野投射経路-制御分子の同定:小脳-前頭前野間の神経回路が適切に形成されるために必要な分子機構を明らかにするため、小脳の出力核に発現するシナプスオーガナイザーの局在解析をすすめている。

今後の研究の推進方策

今後は小脳から前頭前野に至る投射経路がもつ生理的機能を明らかにすることを目的として、2018年度に確立したウイルスベクターと新しい作業記憶課題を利用し、実験を進める計画である。以下の3つの課題を主軸として、目的の達成に向けて計画を遂行する。
課題1では、小脳からの出力がどのような投射経路で前頭前野と結合しているのかを明らかにするため、野生型マウスを用い、ウイルスベクターによるトレーシング実験を行う。2018年度には、変異型狂犬病ウイルスの作成条件を最適化し、アデノ随伴ウイルスの血清型について選別を行った。2019年度はこれらのウイルスを用い、深部小脳核から前頭前野にいたる投射経路を同定する。
課題2では、課題1で明らかにする投射経路が、マウスの行動制御に果たす生理的機能を明らかにすることを目指している。2018年度には、新しい作業記憶の解析装置を開発した。マウスの作業記憶能力がほぼ自動で測定できるようになり、効率よく実験をすすめることが可能となった。2019年度は本装置を利用し、課題1で明らかにした経路の神経活動を薬理学的手法により制御し、作業記憶にどのような影響が見られるのか解析する。
課題3では、上記で確立した技術を発達障害モデルマウスに応用し、モデルマウスの脳で小脳-前頭前野間の結合経路にどのような変化が見られるのか明らかにする。課題1で確立する技術を用い、モデルマウスでみられる投射経路を野生型マウスの結果と比較し、変化の有無を検証する。
以上の3課題から得られた知見を統合し、小脳-前頭前野間の機能的結合が発達障害の病態に果たす役割について考察する。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2018

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Genome Wide Distribution of Linker Histone H1.0 is Independent of MeCP2. Nature Neuroscience.2018

    • 著者名/発表者名
      Ito-Ishida A, Yamalanchili HK, Shao Y, Baker SA, Heckman LD, Lavery LA, Kim J, Lombardi LM, Sun Y, Liu Z, Zoghbi HY.
    • 雑誌名

      Nature Neuroscience

      巻: 21 ページ: 794-798

    • DOI

      10.1038/s41593-018-0155-8.

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Improvement of cerebellar ataxic gait by injecting Cbln1 into the cerebellum of cbln1-null mice.2018

    • 著者名/発表者名
      Takeuchi E, Ito-Ishida A, Yuzaki M, Yanagihara D.
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 8 ページ: 6184

    • DOI

      10.1038/s41598-018-24490-0

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 発達障害の病態理解に向けた小脳-前頭前野-領野連関の解明2018

    • 著者名/発表者名
      石田綾
    • 学会等名
      新学術領域研究「脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理」領域会議
  • [学会発表] Understanding the pathogenesis of Rett syndrome using multiple approaches2018

    • 著者名/発表者名
      Aya Ito-Ishida
    • 学会等名
      第10回光操作研究会・第2回脳情報動態 合同国際シンポジウム
    • 国際学会
  • [学会発表] レット症候群の病態理解に向けて-マウスモデルによるアプローチ2018

    • 著者名/発表者名
      石田綾
    • 学会等名
      東京大学精神科セミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] MeCP2 Induces Structural Changes in Heterochromatin Independent of Linker Histone H1.0 Distribution2018

    • 著者名/発表者名
      Aya Ito-Ishida
    • 学会等名
      第41回日本神経科学大会
  • [学会発表] MeCP2 levels regulate neuronal chromatin structure in vivo,2018

    • 著者名/発表者名
      石田綾
    • 学会等名
      第53回TOKYOニューロサイエンス研究会
  • [学会発表] 神経細胞におけるMeCP2の役割2018

    • 著者名/発表者名
      石田綾
    • 学会等名
      レット症候群とMECP2重複症候群の合同シンポジウム in Tokyo
    • 招待講演

URL: 

公開日: 2019-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi