研究領域 | 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理 |
研究課題/領域番号 |
18H05143
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
木村 梨絵 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 特任助教 (60513455)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経生理 / 神経回路 / 学習 / 行動 / マルチユニット記録 / 視覚野 |
研究実績の概要 |
本研究では、再学習による機能変化の過程で、頑強に保存される回路と柔軟に再編される回路はどのような特徴があるのか、また、保存回路と再編回路はどのように相互作用するのかを、ある一つの脳領野内の局所回路のみならず、多脳領野間の関わりも含めて明らかにすることを目指している。 2018年度では、再学習を行わせる前の、最初の学習による神経活動変化の特徴を、多細胞、多脳領野間で捉えた。頭部を固定した状態のラットに、縦縞が提示された時に、レバーを押し、横縞では、レバーを引くという、視覚弁別誘発性の運動課題を学習させ、学習後には、コントラストを下げた視覚刺激も提示した。すでに、一次視覚野V1において、学習後には、高コントラストよりも、低コントラスト刺激に強く応答するような細胞が出現し、この細胞は課題を正解したときに強く活動することを明らかにしている。今回、このような低コントラスト優位な細胞が、細胞集団として縦縞・横縞の情報表現の際に重要であることを、デコーディングの解析により新たに見つけた。さらに、低コントラスト優位な細胞は、高コントラスト優位な細胞に比べて、自発的な活動、視覚応答のいずれにおいても、高い発火頻度を示した。また、学習によって、視覚誘発電位(VEP)が増大した。以上から、学習による興奮性の上昇が示唆された。次に、局所電場電位(LFP)を解析したところ、高コントラスト刺激の提示時に、学習後には、ベータ帯域のオシレーションが強く生じることがわかった。さらに、この帯域のオシレーションの位相にロックした発火活動が生じ、特に、抑制性の細胞は、興奮性の細胞に比べて、強く位相にロックした活動を示した。つまり、学習によって、高コントラスト刺激での抑制性の影響力の増大が示唆された。そして、高次運動野M2と一次視覚野V1のLFPとの相互関係についての解析も行い、学習前後で変化する傾向が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
再学習による神経活動変化を捉えるためには、まず、その基礎となる、最初の学習による変化を捉えることが必要と考えられるが、学習前後の神経活動を、一次視覚野内の多細胞、あるいは、一次視覚野と他の脳領野との関連から調べた。ここで用いた解析方法は、さらに多くの脳領野間の相互作用を解析するのに用いることもできる。
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今後の研究の推進方策 |
再学習の基礎となる、最初の学習による神経活動変化についての解析を行ったが、再学習については、まだ研究できていない。今後は、視覚と運動の関係性を変化させる行動実験系の確立を行い、神経活動を記録して、多細胞、多脳領野から成る機能的神経回路の頑強性と柔軟性の特徴を明らかにする。また、光遺伝学の技術を用いて、特定の細胞の神経活動を操作する実験も行う。
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