研究領域 | 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理 |
研究課題/領域番号 |
18H05145
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
菅原 翔 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 特任助教 (80723428)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 運動制御 / 意欲 / 機能的磁気共鳴画像 / 超高磁場MRI |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、我々の日常生活において情動状態と運動出力との相互作用を媒介する神経経路を解明することである。この目的を達成するための検討事項として、1. 全脳ネットワーク解析によって機能回路間の大局的結合様式を同定し、2. 一次運動野における皮質層解析から詳細な入出力関係を解明することを提案した。 1. 大局的結合様式を同定するための取り組みとして、単純な握力課題中に金銭報酬によって情動状態を操作する介入を行い、情動状態と運動出力を結ぶ経路を機能的MRI装置を用いて検証した。その結果として、報酬予期と罰回避のいずれにおいても中脳ドーパミン含有神経核である腹側被蓋野/黒質緻密部(VTA/SNc)と一次運動野(M1)が準備段階において活動することを示した。さらに、VTA/SNcおよびM1の準備活動の大きさは、後の実行時の最大握力値と相関することを明らかとした。また、報酬予期と罰回避で異なる内側前頭前野領域が賦活することも明らかとなった。以上の知見から、情動状態と運動出力を結ぶ神経経路は、情動状態によらず共通する部分と異なる部分が存在する並列回路であることが示唆される。げっ歯類と霊長類においては、VTA/SNcからM1への直接的な神経投射が存在し、運動制御に関与することが報告されている。今回の実験で明らかとなった成果は、我々の日常において何らかの要因で変化する意欲や情動状態を実際の運動生成に統合する神経機構を明らかにするものである。 2. 皮質層解析によるM1での入出力様式の解明について、当該年度は撮像条件の設定と解析環境の構築を行った。現時点でM1を1mm程度の解像度で撮像するパラメータを用いて、層間での課題関連活動の異同を比較可能な状況が整っている。1. において明らかとなった神経回路の詳細な接続様式を調べるために、握力課題を実行中の7T-fMRI計測を現在準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は、我々の日常生活において情動状態と運動出力との相互作用を媒介する神経経路を解明することである。この目的を達成するために、平成30年度は、単純な握力課題中に金銭報酬によって情動状態を操作する介入を行い、情動状態と運動出力を結ぶ経路を機能的MRI装置を用いて検証した。結果として、報酬予期と罰回避のいずれにおいても中脳ドーパミン含有神経核である腹側被蓋野/黒質緻密部(VTA/SNc)と一次運動野(M1)が準備段階において活動することを示し、備活動の大きさが実行時の最大握力値と相関することを発見した。さらに追加実験では、運動実行時にもM1に加えてVTA/SNcが賦活し、運動実行時のVTA/SNcの活動量が最大握力値の相関することも示した。 また、VTA/SNcの活動を制御すると考えられる脳領域として、内側前頭前野における準備活動が認められた。VTA/SNcおよびM1の活動は報酬予期と罰回避で共通する一方で、報酬予期では腹内側前頭前野が、罰回避時には背内側前頭前野がそれぞれ動員されることが明らかとなった。よって、情動状態と運動出力を結ぶ神経経路は、情動状態によらず共通する部分と異なる部分が存在する並列回路であることが示された。これらの神経回路の機能的特異性をより明確に検証するため、領域内連携として東京都医学総合研究所の脳機能再建プロジェクトの協力により、経頭蓋磁気刺激を運動準備時に背内側前頭前野に行う実験を開始した。 最終的な到達点として、ヒトの一次運動野内で皮質層間神経回路の機能的役割に迫るため、7T-fMRIを用いた高解像度撮像を計画している。現時点でM1を1mm程度の解像度で撮像するパラメータを用いて、層間での課題関連活動の異同を比較可能となっている。 以上の進捗状況を鑑み、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度はfMRI信号を用いてネットワーク内の情報伝達方向を推定可能なDynamic Causal Modelingによる解析を通じて、すでに取得し全脳撮像データを用いてネットワークのダイナミクスをより詳細に検討する。さらに、全脳解析によって明らかとなった領域の因果的役割を明確にするため、経頭蓋刺激による介入研究を領域内連携の枠組みを利用して進めている。平成30年度決定したプロトコルに従い、平成31年度は30名の実験を実施して因果的役割を検証する計画である。並行して競争課題中の全脳撮像を進め、これまでに成功している手法を用いて解析を行い、情動状態と運動出力の結ぶ神経経路の一般性を明らかとしたい。 M1における皮質層解析から詳細な入出力関係を解明するという目的に対し、皮質を複数層に分割して解析可能な状況が整っている。よって、すでに神経回路の同定が完了している握力課題を用いて、実際に情動と運動がダイナミックに変化する課題中の高解像度fMRI計測を7T-MRIを用いて実行し、一次運動野内での情報の流れを実際に可視化することを目指す。加えて、VTA/SNcは大脳基底核と密接な接続を持つことはよく知られており、げっ歯類および霊長類を用いた研究では情動状態に対応する独立した神経回路が存在することが報告されている。当初の研究に加えて、中脳と大脳基底核に限定して超高解像度の7T-fMRI計測を行い、中脳辺縁系における神経回路網が、情動と運動の相互作用においてどのような役割を担うかを検討したいと考えている。したがって、7T-fMRIの適用範囲を皮質だけでなく皮質下領域にも拡張し、より詳細な並列回路網をヒトを対象として検証することを目指していく。
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