研究領域 | 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理 |
研究課題/領域番号 |
18H05146
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
吉原 良浩 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (20220717)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 前障 / 大脳皮質 / 徐波活動 / 意識 / トランスジェニックマウス / 光遺伝学 / 神経回路 / 行動 |
研究実績の概要 |
前障(Claustrum)は哺乳類の大脳皮質の内側に位置する薄いシート状の神経核であり、すべての感覚情報(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・体性感覚)が入力する感覚統合ハブとして考えられているが、その機能や詳細な神経接続については全く解明されていない。私たちは最近、前障ニューロン特異的にDNA組換え酵素Creを発現するトランスジェニックマウス系統(Cla-Creマウス)の樹立に成功した。すなわち、Cre/loxP依存的に様々な外来遺伝子(蛍光蛋白質、光・薬理遺伝学プローブ、神経回路トレーサーなど)を前障特異的に発現誘導することができ、前障ニューロンの詳細な形態と神経回路の可視化、神経活動イメージング、さらには光遺伝学・薬理遺伝学を駆使しての神経興奮・抑制の誘導などの遺伝学的神経活動操作を行うことが、世界で初めて可能となった。このような遺伝学的手法を、in vitro及びin vivo電気生理学、神経行動学と組み合わせることにより、末梢感覚情報の統合における前障の役割と意識との関連を明らかにすることを本研究の目的とした。 平成30年度においては、前障ニューロンの遺伝学的可視化による神経解剖学的解析を主に行った。まず、様々なマーカー分子による前障ニューロンの詳細な分類を行い、Creを発現する前障の細胞がをグルタミン酸作動性興奮性ニューロンであることを明らかにした。次にCla-Cre マウスに、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて様々な蛍光蛋白質(tdTomato, synaptophysin-EGFP, 膜移行型GFPなど)を発現させ、前障ニューロンの投射領域の可視化に成功した。さらに改変型狂犬病ウイルスとAAVを組み合わせた前シナプス性ニューロンの同定を行い、前障への入力細胞の可視化に成功した。これらの知見は次年度に行う電気生理学的及び神経行動学的実験の重要基盤となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
晩年のフランシス・クリックが『意識』に相関した脳活動の考察において、前障が意識現象を司る脳部位であるという大胆な仮説を提唱した。またこれまでに、他の多くの研究者たちによって前障の機能に関する多くの考察がなされてきたが、前障の薄い不規則な構造、さらにはマーカー分子・遺伝学的ツールの欠如などが障壁となり、この興味深い仮説の実験的検証には未だ至っていなかった。私たちは一部の前障ニューロン特的にCre組換え酵素を発現するトランスジェニックを作製し、AAV 等のウイルスベクター技術を駆使することで前障ニューロンの選択的可視化および遺伝学的操作が可能となった。平成30年度においては、Creを発現する前障ニューロンの詳細な神経解剖学的解析を行い、前障へシナプスを入力するニューロン及び前障が軸索を投射する脳部位の包括的可視化に成功した。このように本研究課題はおおむね順調に進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
前障が大脳皮質のほぼすべての領域と双方向性の神経接続を有するという古典的神経解剖学の先行研究と、前障ニューロンの刺激が大脳皮質の広汎な領域における神経活動の静止状態を誘導するという私たちのグループの予備実験結果を基にして、『前障が末梢から入力するすべての感覚情報を統合し、大脳皮質全体の活動を制御することで意識レベルを調節することによって、特定の末梢感覚入力への選択的注意・認知を高め、思考・情動・記憶・意思決定などの高次脳機能の発現に重要な役割を果たす』という作業仮説を立て、その検証を行う。平成31年度においては、電気生理学・光遺伝学・薬理遺伝学的手法を駆使することによって、前障の機能を生理学的に解析する。具体的には、前障ニューロンの光遺伝学・薬理遺伝学的活動操作システムの確立、in vitro電気生理学的手法による前障ニューロンの性状・機能解析、さらにはin vivo電気生理学的手法による前障ニューロンの機能解析を行い、前障の機能解明へと挑む。
|