研究領域 | 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H05153
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
大友 征宇 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (10213612)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光合成 / 電子伝達 / 光電変換 |
研究実績の概要 |
本研究は、天然光合成の初期過程における集光・電荷分離と電子移動間の連係プレイ(Interplay)に関するものである。これらの素機能を担う光捕集複合体LH1、反応中心RC、水溶性電子伝達タンパク質HiPIPと膜内チトクロム(Cyt) bc1を研究対象とし、LH1-RC、HiPIPとCyt bc1からなる光捕集・電荷分離・電子伝達の3機能を併せもつ超分子複合体の共結晶化と構造解析を行い、これらの複合体間において機能調節を司る相互作用の構造基盤の解明を目指す。 本年度はまずHiPIPとLH1-RCの単離精製および特性評価を行った。好熱性紅色硫黄光合成細菌Thermochromatium tepidum由来のHiPIPを水溶性画分から、LH1-RCを膜画分からそれぞれ単離できた。吸収スペクトル、SDS-PAGEおよびMALDI-TOF/MSの測定結果から両タンパク質とも高純度に精製され、HiPIPは還元状態であることを確認した。次に、HiPIPとLH1-RCの共結晶化を行った。精製されたHiPIPとLH1-RCを界面活性剤を含む溶液でバッファー置換と濃縮を行い、HiPIPとLH1-RCを各種モル比で混合し、シッティングドロップ法とオイルバッチ法で結晶化を行った。約2週間後に一部の条件下で結晶の形成が確認されたが、MALDI-TOF/MS測定ではpHやHiPIPの割合によって結晶中に含まれるHiPIPの組成にバラツキがあった。有望と見られる結晶を回折実験で調べたところ、タンパク質が単独に存在する場合に得られた結晶と比べて、空間群や格子定数に変化が現れたことからHiPIPとLH1-RCとの共結晶が形成されたことを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本補助金を受ける前から通常の菌体培養から各種タンパク質の精製、特性評価までの手法を確立し、各種予備実験などを行ってきたため、本研究課題をスムーズに開始することができた。1年目の今年はHiPIPとLH1-RCの単離精製および特性評価までは順調に行ったものの、共結晶化条件のスクリーニングと共結晶形成の確認に予想以上の時間と労力がかかった。最終的には、協力研究者たちとの努力によって膨大な条件の組合せの中からかなり限られた条件まで絞り込むことができた。まだ結果の再現性などを確認する必要があり、これができ次第、速やかに成果を学会発表と国際学術論文誌を通して社会に発信する予定である。以上のことを総合的に判断した結果、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
現状では、共結晶化条件の更なる最適化が必要である。具体的に、pH、金属イオンの種類と濃度、沈殿剤PEGのサイズ、界面活性剤、温度、バッファーの種類などを調整して、得られる結晶の回折分解能で判断する。これと同時に共結晶の構造解析を開始する予定である。既存のLH1-RCの高分解能構造を用いて分子置換を行い、結合部位と考えられるところにHiPIPに対応する電子密度の有無を確認する。一方、LH1-RCとHiPIPとの相互作用を裏付けるために等温滴定マイクロカロリメトリーと赤外分光FT-IR測定を行う。これらの手法によって相互作用における熱力学的パラメータ(結合定数、化学量論比、Gibbs自由エネルギー、エントロピー、エンタルピーなど)と相互作用する界面における構造変化を調べることができる。
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